足掛け7年半の旅路の終わり
ただ、ネットワークの勉強をしてみたい——スタートは、純粋に、そういう想いだった。
ネットワークスペシャリストと呼ばれるような人間になりたいわけではなかった。なれるとも到底思えなかった。
そんなITど素人の私が、情報処理技術者試験のカテゴリレベル1の試験「ITパスポート試験」のテキストを初めて開いたのは、雪のため休日出勤の出張が中止になった日だったと記憶している。中止された仕事の後片付けを少しやり、すぐに帰りのバスに乗った。雪でだいぶ遅延したバスの車内で、外で待っている間にすっかりかじかんでしまった指先で、分厚いテキストの最初のページをめくった。
いきなりの数学的内容。2進数の話。
ド文系を歩んできた自分には日本の歴史上の出来事よりも馴染みの薄い、はるか昔の記憶をたぐり寄せつつ、この旅路が果てしないものであることを途方に暮れる想いで実感した。
自分は果たして、目的地まで辿り着くことができるのだろうか——【富士山】の頂上を1号目から見上げている気分だった(【富士山】は普通五合目から登り始めるという意味を込めて)。
この度の令和6年度(2024年度)情報処理技術者試験の春期試験において、遂に念願だった【ネットワークスペシャリスト試験】に合格できたので、その記録をここに記す。自分の自分による自分のためのわがままの極地となる記事である。
だから、「最短合格!」とか「一発合格をするための勉強法!」とか、資格系のブログや動画で需要が最もありそうな内容とは無縁のものとなっている。今から記すのは、学歴も仕事も非IT系の人間が、何度も「不合格」という壁に弾き返されながら、ほうほうの体で勉強を積み重ねて、ようやくゴールに辿り着いたその道程を書き残すものである。”最短合格!”や”効率”といった言葉とは程遠い、再現性はあるが再現すべきではない道を記すことによって、受験を考える皆様には同じ轍を踏まないネスペ受験をしていただいて、あっさりとゴールをしていただけたら幸いである。
費やした年数は実に約7年半にも及ぶ。
——ちなみにこの書き出しはネスペ界の大御所・左門至峰先生が著したネットワークスペシャリスト試験(以下、ネスペ)の大定番問題集『ネスペシリーズ』にちょくちょく挟まれているコラムや小説、小話の雰囲気を模倣したものである。私は左門先生を心から、1ミリの曇りもなく大尊敬しているのだが、この文体の雰囲気だけは最後までちょっと馴染めなかったところがあるので、ところどころで揶揄するような記述が挿入されている、かもしれない。だから左門先生に恩義を感じているネスペ受験者の中にはこの記事を読むと怒り狂う人がいるかもしれない(私も超恩義を感じている)。左門先生のことは本当に尊敬しているし、本当の意味での”ネットワークスペシャリスト”を名乗って良いような人というのは左門先生のような方をはじめとしたごく一部の人たちだけだろうと考えている。
そう心から思っているのに、、、なぜコラムになった途端、左門先生の文章が私の鼻についてしまうのか。
ネスペの問題はある程度解けるようになっても、その謎を解くことは最後までできなかった次第である。
ITパスポートから応用情報技術者まで
前述のとおり、私はまったくのIT素人であった。そのため、当初からこの【ネットワークスペシャリスト試験】に憧れを抱いていたものの、一足飛びの飛び級受験を諦めて、情報処理技術者試験カテゴリレベル1の【ITパスポート試験】から順番に受けていった。結果的には、これは私には必要な道であったと今でも切に思っている。俗に「高度試験」と呼ばれるカテゴリの試験を受験するまでの経緯は下記の記事にまとめているのでお時間あればぜひ参照されたし。
繰り返すようだが、この記事は最短合格への方法的なものとは無縁となっている。それよりも、ネットワークのことを勉強したくて勉強したくて仕方がなかったけれども実機も環境も手元にない非IT従事者が、自分の知識が深まっていくことを心底楽しいと思いながら、時間をかけて合格までの道を歩んだ記録となる。いわば「僕の目標達成までの話を聞いて!」ってだけの内容だ。
そのため話したいことがたくさんあり、信じられないほどの長文となっている。この後すぐに続く文章も、長い長い前置きとなっており「一体いつネスペの話になるねん」と推敲の際に自分でもツッコんだくらいだ(そしてこの一文を付け足した)。
それにも関わらず、もし最後までお付き合いいただけた方がいたならば、心からありがとうを伝えたい。読んでくれてありがとう。私の話を聞いてくれてありがとう——と先に言っておいて、何とかして最後まで読ませようというスタイル。
ネスペとは
ネットワークスペシャリスト試験(以下ネスペ試験)とは、情報処理技術者試験(主催:独立行政法人 情報処理推進機構)のカテゴリレベル4に属する国家試験である。この試験群の中で「レベル4」は通称「高度試験」と呼ばれ最高カテゴリに属する。が、9つある高度試験の中でも難易度の差があるのが現実である。ちなみに私は過去、この高度試験の中で【情報処理安全確保支援士試験】と【プロジェクトマネージャ試験】に合格している。
9つの試験の全てを受験したことがあるわけではないので多くを語れる立場ではないのは百も承知であるが、個人的には【情報処理安全確保支援士試験】は9つの試験の中で頭ひとつ飛び抜けて簡単であると思っている。【応用情報技術者試験】と他の高度試験の間のレベルにこの【支援士試験】を配置するとちょうどよくなるんじゃないかな〜と個人的には思っていて、出弾範囲や知識体系の重なり具合から考えて、ネスペ試験は【支援士試験】の上位互換であるといえる試験である(というか【支援士試験】が下位互換というか)。ネスペの最近の出題傾向からも特にそう思う。セキュリティ分野出過ぎである。
ちなみに上記2つの試験を私は一発合格しているが、このネスペ試験は3度落選し、4度目の正直でようやく合格した(しかもギリギリだ!)。つまり何が言いたいのかというと、他の高度試験に一発で合格できていて同じような要領で学習していても、受からない試験というのがあるということだ。それが私にとってのネスペ試験であり、私にとっての遥か遠く先にあるゴールだった。というか、ネスペに落ちている間に他の2つに合格しちゃった、というのが正しい表現である。一発でネスペに受かっていたら他の2つの試験は受験すらしていなかった可能性がある(特に【プロマネ試験】)。
しかし結果論であるが、ネスペの壁に打ちのめされながらも諦めずにいられたのは、他の高度試験に合格できたことによって何とかモチベーションと自己肯定感を維持できていたからだとも自己分析している。ネスペ試験は1年に1回(4月)しか受験機会がないので、落ちた時のショックがべらぼうにデカい。落選直後に再受験を誓っても、その想いを1年間維持するには薪の上に寝て苦い肝を嘗め続けるくらいの苦行を要するし(臥薪嘗胆)、学んだ知識の記憶を維持するのも日頃の仕事が非IT系であるだけにかなり難しい。人はなぜこれほどまでに忘れてゆく生き物なのか。
またネスペで出題される問題は、たとえ応用情報まで合格していても何がわからないのかすらわからないという状態からスタートすることになる場合が多いだろう。それくらい難しい(ちなみに私は基本情報も応用情報も選択問題でネットワーク分野を選択していた)。
そして歯を食いしばりながらテキストによって知識を増やしていっても、解答の大半は論述形式(下線部①とあるがその理由を50字以内で述べよ、みたいな形式)であり、本文もMAX10ページくらいに渡る長文を読み込んで答えることになるので、「読解力+記述力=国語力」が必要となる。
専門知識もさることながら、試されるのは複合的な力であるという点が、応用情報技術者試験までとは大きく異なる点であるといえる(応用情報はなんだかんだで記号問題も多いから)。
筆者のスペック
- 大学、仕事ともに非IT系(特に大学は文学部国文学科というド文系)。
- 大学受験のときに論述型の国語試験の学習に取り組んできたので、高度試験でよくある「理由を50字以内で述べよ」的な問題に対するアレルギーはそんなには無い。
- 実務経験ゼロ。というか、ネットワーク/インフラエンジニアとやらが何をしている仕事なのか今もってよくわかっていない。ネットワークエンジニアとインフラエンジニアの境目って何ですか?
- 趣味で幼い頃からPC、IT関連に触れてきた——なんてこともまったくない。
- IP→SG→FE→AP→SC→PMという順で合格した。この中でFEは3度落ちた(ちなみにペーパーテスト時代)。FEに受からなかったのはひとえにプログラミングができなかったからであり、現在も余裕でできない。「アルゴリズム」と「『表計算』のマクロ問題」は考えてもどうせ全くわからないから解答を全部「イ」にしていた。問題文すら読んでいなかった。
- ネスペにも3度落選している(R3、R4、R5)。その合間の秋試験でSC、PMに合格した(ちなみにAUには落ちた)。
- 過去3回の試験では、いずれも午後Ⅱまでは進んだ。ただ1回目のR3の午後試験はマジで何もわからなかったに等しい。本文中の記述からそれっぽいことを抜き出してただ解答欄を埋める作業をしただけであった。それだけで午後Ⅰが60点を超えたという事実は、色々な意味でこの試験の本質を表しているといえるかもしれない。
- R5に至っては午後Ⅱ試験で59点で不合格となり、あと1点が届かなくて1年間を棒にふるという地獄を見た。ちなみに絶対に合格したと思っていたので、この合格体験記を途中まで執筆していた。つまりこの記事は1年越しのリライト記事となる。
- 合格までの総学習時間は800時間弱くらいである(受験4回分合計)。「studyplus」という勉強計測アプリによる記録から。
- 他に、前述の通り【情報処理安全確保支援士試験】に合格しているわけだが、この試験の知識はそのままネスペに結びついているとも言えるので、この試験に対する学習時間も含めれば1000時間弱くらいにはなる。
- 平日は始発に乗ることによって座席を確保し、電車内で30分くらい。職場近くの喫茶店で50分くらいという勉強時間である。帰りの電車でも一応テキストは開くものの、9割9分寝た。
- 休日は朝5時半にマックに行って1時間くらい。試験直前1ヶ月くらい前の追い込み時期は夕方にもマックに行き合計で3時間くらい。
- たまに日帰り温泉施設にオープン直後から行き、「2時間勉強しては45分温泉に浸かる」というルーティーンを実施して朝から晩まで勉強することもあった。これはマジで楽しかったので全日本国民にオススメしたい。「温泉合宿」と名付けて一人で盛り上がっていた(友達いなそう)。
- つまり、合格までの最短距離なんてものはまったく通っていない。そんなものがどこにあったのか未だにわからない。「合格したぜ!」なんて偉そうに言っても1日あたりの学習量は上記程度のものなので、河野玄斗並みに1日10時間とか勉強できたら1回目で合格していた可能性も無きにしもあらず。長時間勉強に耐えられる能力がなかった。
- ただネットワークの勉強は本当に、心の底から好きだったので、勉強すること自体がまったく苦ではなかった。なんなら時間が許せばどれだけでも勉強できたかもしれないが、やりたいことは他にもあった(典型的なダメな奴の発言)。
ということで、本記事はズブの素人が実機も触らずテキスト学習のみで泥臭く遠回りしながら勉強して合格した手記となる。上記で合格までの学習時間を述べたが、言ってみればITパスポート取得から既に私にとってのネスペの学習は始まっていたとも言えるので、そう考えると学習期間は実に7年半にも及ぶことになる。
最終的にネスペに挑戦をしたいという想いを抱きつつも、途中「基本情報技術者試験(FE)」の落選3回で挫折しかけ、素人の自分には所詮高度試験に挑戦なんてこと自体が無謀なことだと諦めかけたときもあった。誇張ではなく本当に諦めかけていて、4度目の基本情報受験の際には試験を受けに行くこと自体をやめようとすら考えていた。しかし当日になって、何故か朝5時頃に目が覚め、朝風呂にゆっくり浸かり、その後ブログの執筆までしたのだが、ちょうど1記事が書き終わってなお、試験開始までにまだ多少の時間的余裕があった。そしたら行くだけ行ってみる気持ちが芽生えた。ただすでに諦めていたので、4月に入ってからは1秒も勉強していなかった。会場までの電車の中で久しぶりに基本情報の過去問道場を開きポチポチとこなしたら意外と覚えていて、今までの積み上げもあるので午前試験くらいはさすがに通るかな〜という調子で受験したら午前はバッチリな感触。続く3敗中の午後試験もまったく自分に期待せず取り組んだら、何か知らないが問題がよく解ける感触があった。アルゴリズム問題をハナからすっぱりと諦めたおかげもあって、時間的な余裕も十分あった。そして夜になって資格予備校の解答速報を見てみれば、どう考えても合格していた——この一連の流れがあったことで、私のネスペ受験は首の皮一枚で繋がった。
続く応用情報も最低2回は受験するだろうという気持ちでいたら、絶対に6割の正答がなかったにも関わらず一発で合格できた。この時に、この試験は合格率調整のための点数の嵩上げがあることを己の身から確信した。
応用情報まで取得できたら、あとは本丸であるネスペ試験への挑戦を残すだけなので、受かるまで受け続けようという気持ちが自然と芽生えた。最初はテキストを読むにも何が書いてあるのか全然わからなかったが、それでもネットワークの勉強をすること自体がとても楽しかった。気分はゴール下のシュートを会得した桜木花道である。
元々ネットワークの知識を得たいと願って始めた勉強である。勉強自体が楽しい時間であった。
そのため、合格点に必要なことだけを学習して効率よく最短距離で合格だ! みたいな気持ちは1ミリもなかったので、教科書代わりのテキストを何冊もじっくりと読み、左門先生のネスペシリーズ(※後述)を全巻制覇して、盤石の体制を整えて3度目の受験へと挑んだ。が、そこまでやっても、実務経験ゼロの非IT従事者にとってはやはり難しい試験であった。特にR5年度の午後1試験は、過去問があまり糧にならないテーマばかりが3問ともに出題され、気持ちがくじかれた部分があった(※後述)。
また余談であるが、実務経験ゼロだと述べたが、正確にはネットワーク関連の業務に少しだけ携わったことはある。といっても、本社からの指示で、指示書通りに訳もわからず四苦八苦しながらファイルサーバを設置したに過ぎない。ネスペ試験でたまに出てくる「営業所には必要な機材と指示書を送って、設置が完了したら本社が動作確認をする」みたいなあれである。一応配属された支店のIT担当者のメンバーに名を連ねていたのでこの業務を担当したわけであるが、支店の他のIT担当者もみな素人に毛が生えているかも微妙な知識レベルでしかなく、誰に聞いても答えはわからない——あるいは本人は答えだと信じているが全然間違っている、ということがよくあった。もちろん私の主なIT関連業務は、「ワードの空白が揃わないんですけど⁉︎」とキレ気味に質問されたら、質問者の代わりにグーグルで検索することであった。
全然仕組みもわからず、指示書に書いてある日本語だか英語だかもわからない単語・略語に「?」を浮かべながら、必死にファイルサーバなるものを構築したら、社員みんなのPCやiPadからアクセスできるようになってファイルが共有できたことに超感動したのだった。でも自分が何をやっているのかが全然分からなかったことが、ただのサラリーマンでしかないことへの悲哀として感じられた。自分は何も知る必要がない、言われた通りに動いていれば良いだけの駒なのかと。ちなみにこれ以後、こんな業務は二度となかった。ネットワークの世界が、私の手元から離れていったのである。
ただこの時の経験が”ネットワーク”というものにとても興味をもつきっかけとなり、受験を志した動機となる。ネットワークというものをきちんと勉強してみたいと思い、とりあえずGoogleで「ネットワーク 学習」と検索してみたら専門用語の連発で全然わからず、これはもう今のレベルではどうにもならないので体系的に1から勉強しようという考えに至る。そこで「体系的に勉強するとなれば資格かな」と思い至り、「ネットワーク 資格」と検索したら、「ネットワークスペシャリスト試験」がヒットしたのだった。ただ過去問を見たらあまりにも何も分からな過ぎて絶望していたところ、この資格には下位資格があることを知り、ズブの素人の局地であることを誰よりも自覚していた私は、入門編の「ITパスポート試験」から受験しようと思い立ち、Amazonでテキストを購入したのだった。
教科書代わりのテキスト的な使用教材
ここでは私が実際に使用した教材を羅列していくが、もちろんこんなにも使用する必要はない。私はもはや趣味の領域で左門先生の『ネスペシリーズ』を全巻完走してしまったが、そこまでの労力も費用も掛ける必要はない。好きだからやっただけである。
先に必要教材の結論を述べれば『マスタリングTCP/IP 入門編』と左門先生の『ネスペシリーズ』3冊くらい(というか過去問演習3年分くらい)で合格できる人は合格できるだろう。ただ私が合格できる人ではなかったというだけで。
最短合格を目指す人は『マスタリングTCP/IP』をザッと読んで、過去問3年間分を3周くらいして、4月に入ったら過去問道場を名人クラスになるまで回して選択肢を見ただけで答えがわかるようになるまで仕上げるのが王道であると思われる。ぜひ頑張ってほしい。
図解入門TCP/IP 仕組み・動作が見てわかる
ネスペ試験の教科書代わりのテキストとしては、後に掲載する『マスタリングTCP/IP 入門編』を推すネスペ合格者が大半であろう。が、私はこの本を強くオススメする。理由は単純で、著者のみやたひろし氏のファンだからである(たぶん年齢は私と同じくらいなのだが、人生において大きな差を開けられているところにシビレるゥあこがれるぅぅっ!)
内容自体は、細かい部分を除けばほとんど違いはないと言える(少なくてもネスペに必要な知識レベルではその内容量に大差はない)。一番の違いは図解の多さ、見やすさである。「図解入門」の言葉に偽りなしであり、素人にとっての取っ付きやすさという点ではこちらの方に軍配が上がると私は考えている。
というか著者のみやた先生も過去に絶対『マスタリングTCP/IP 入門編』は読んでいると思うので、それを越えようとして書いた本ではないかと勝手に推測している。この本はマジでオススメ。とにかくこの本を一度通読することから学習を始めよう!
インフラ/ネットワークエンジニアのためのネットワーク技術&設計入門書 第2版
これの初版本は上記『図解入門TCP/IP』の著者みやたひろし先生のデビュー本で、実は私はこの本を読むことからネスペの学習に入った。「入門」の言葉通り、非常に基礎的な知識から説明されていて、上記の本が出るまではこの本がネスペ界隈にとって『マスタリングTCP/IP 入門編』のライバルであった。
私が初めて読んだネットワーク専門書ということで個人的にとても思い入れのある一冊であり、最もボロボロとなった本でもある。だからこそこれを推したい気持ちが強いのだが、正直『図解入門TCP/IP』を読めば、これを読む必要は、ネスペ受験という意味合いにおいてはあまりない。
インフラ/ネットワークエンジニアのためのネットワーク・デザインパターン
この本はみやた大先生の本の中で「中級編」といった位置付けである。様々な会社の規模におけるさまざまなネットワークのデザインパターン例が解説と共に掲載されていて、実務向きな本である。具体的には、中小企業の小規模ネットワークではUTMを中心とした構成で数パターン、大企業の大規模ネットワークではあらゆる機器の冗長化を含めた典型的な構成やワンアーム構成といった具体的な例を掲載している。
正直ネスペ受験においてはここまでの知識は必要ないかな〜といったところなのだが、この本を読むとスタック接続+リンクアグリゲーション+チーミングでこれでもかと盤石の冗長構成を築いていくのが理想で、ネスペ試験に出てくるネットワーク構成図だと冗長化足りなくて脆弱なんじゃないかと不安になる、といった通な楽しみ方ができるようになる(何それ?)。特にネスペはスイッチ関係の冗長化が不十分じゃね? ということを感じるようになる(特にL2スイッチ)。実際の現場でどこまでやるのが主流かは私に知る術などナッシングだが。
ネスペの過去問がそれなりに理解できるくらいになってくると、構成の意図や著者の解説が腹落ちするようになってきて、とても面白く読める。これだけの知識や経験に基づく構成パターンをこの値段で惜しげもなく著者が開陳してくれていること自体がびっくりな、非常に内容の濃い一冊。
マスタリングTCP/IP―入門編―(第6版)
やってきました大本命! の『マスタリングTCP/IP―入門編―』である。これさえ買っておけば間違いないという一冊で、私のオススメがいまいち信じられなければこの一冊を買っておきましょう👍、というくらいのド定番である。
内容ももちろん素晴らしい。自分の知識レベルに応じて読むたびに必ず新しい発見があるという良書である。私は合計3回読んだが、読むたびに、前回はサラッと流したところが今回は深く理解できた! という手応えがあった。かといってズブの素人をまったく寄せ付けないわけではないという敷居の低さも魅力である。もう6版も版を重ねる名著であり、「入門編」とは銘打たれているもののネスペ試験にちょうど良い強度の内容である。
ちなみに実は『応用編』も存在するが、なぜかそちらは人気がなく、1998年の版で止まっている。Amazonレビューも「情報が古くてもう使えねー」みたいな評価となっている。たぶん内容が難しすぎるのかな。
ネットワークはなぜつながるのか 第2版
これもネットワーク界隈で非常に有名な本である。ただ正直ネスペ試験に必要か? と聞かれれば「別に読まなくても良いんじゃね?」という答えにはなるのだが。
この本は”専門書”というよりも”読み物”としてのニュアンスが大きい。一つのWebページを表示するのには想像以上に壮大な旅をしてきてあなたの元へそのページのデータがやってくるんだよ、ということを400ページに渡ってドラマチックに描いているのだ。
例えば、この記事を表示するのに、あなたのパソコンとAmebaのwebサーバーの間にトンネルが造られて(TCP)、そのトンネルを通ってこの記事データがあなたのパソコンにやってくるのである(IP)。しかしそのトンネルは単純な一本道ではなく、様々なところに寄り道をしながら、世界中に無数に存在するパソコンの中からあなたを――あなただけを探し当てて、長い旅路の果てにあなたのもとへ届くのである。その旅は、ロマンの塊である。姿形を変えたり(ADSL、FTTHなど)、道を訊いたり(DNS)、外の世界へ旅立つための空港を出発したかと思えば(プロバイダ)、入国審査ではじかれちゃうかもしれず(ファイアーウォール)、私は怪しいものではありませんとパスポートを見せながら必死に証明するのである(各ヘッダー)。あなたのパソコンに、冒頭にある本著の表紙画像1枚を表示するのに、400ページを超えて描かれるほどの壮大な旅が繰り広げられているのである。
私がかつて書いた書評ブログ
実はこの本はネスペ試験の学習を始めた最初期に2度目の通読をしたのだが、初めて読んだのはITパスポート試験を受験する前だったと思う。つまり、ネットワークというものに興味関心を抱き始めた時期で、その想いを加速させるのに一役買った一冊でもある。
この本を読んで、「この世界は一部の天才達が形造ったものを、私のような数多くの凡人達が仕組みも真なるところも理解せずただ『こうすれば、こうなる』という結果だけを享受して生きているものなのだな」ということがよく分かった。TCP/IPの仕組みの秀逸さは「こういうトラブルに対しては、こうすることにしておこう」という解決策があらかじめ盛り込まれたシステムとなっている点にあるわけだが、天才達には我々凡人が如何にできないか、如何に享受されたものを何も考えずに使うだけなのかが見えていたわけである。
インターネットという仕組みを長い年月を掛けて作り上げてきた先人たちへの感謝の気持ちを呼び起こし、ネスペ試験へのモチベーションを高めてくれる名著である。まあインターネットって軍事目的で開発されたんだけども。
ネスペシリーズ(過去問集)
この『ネスペシリーズ』はネスペ受験者の間では非常に有名であり、ド定番ともいえる名著である。1冊で1年分の午後試験の解説しか掲載しない代わりに、そこまでしゃぶり尽くすんかいというくらいの解説が盛り込まれている。ただ詳しすぎる弊害もあって、丁寧に読み込みながら取り組むと過去問演習に時間が掛かり過ぎるため、2周目以降は問題文解説はすっ飛ばしてざっくりと解答解説のみを読めば良いと思う。
ネスペの問題集といったら正直これ一択で良いというのが私の考えである。が、もちろん費用はそれなりに掛かるし、上記のように詳しいだけに読み込むのもまた時間が掛かるので、「最短で!」とか「格安で!」とか資格マニア的な価値観で挑もうとしている受験生にとっては相性は悪いだろう(それが悪いという意味ではなく)。
また、他の問題集を使ってネスペに合格する人は本物のエンジニアなんだろうな、と思ったりする。私のようにネットワークのことなんざ何もわかってないような人間(≒応用情報に出題されるくらいのネットワーク問題をなんとなくならそれなりに解ける程度)には、これくらい丁寧に解説してもらわないとまったく太刀打ちできないのがネスペという試験であった。
以下、刊行されているすべてのネスペシリーズを制覇した私による、各年度の解説。
ネスペR5
私が午後2試験59点(合格まであと1点)で落ちた悲しみの象徴ともいえる年度の過去問を取り扱った問題集。
この年は午後1試験が鬼門で、3問とも新技術に関する出題であった(落ちたの午後2だけど)。つまり、過去問演習での丸暗記だけでは太刀打ちできない内容だったのだ。
ただそれでも合格まであと一歩のところまでいけたのは、ネスペシリーズを著した左門先生の「新技術の場合は問題文に丁寧な解説がある」「よく読むことで解答できるように工夫されている」「基礎知識が大切」という言葉を肝に銘じていたから、衝撃を受けつつも、致命的な焦りからは踏みとどまれたことによる。
「HTTP /2」(問1)とか「IGMPv3」(問2)とか「Wi-Fi6」「WPA3」(問3)とか、いずれも今まで出題されたことのないバージョンの技術の中から2問を選択しなければならなかったので、受験生は度肝を抜かれた。もちろん上記の技術に精通している本職の方ならばまったく問題がなかったであろうが、私のような非IT人間や、エンジニアであってもネットワークが専門ではない人にとっては、ベースとなる基礎知識に加え、如何に問題を読み解くかの国語力が試されることとなった。
経験者ならわかってもらえる思うのだが、午後1の自分の中での手応えは、その後の午後2へのモチベーションに笑っちゃうくらい影響する。当然といえば当然だし、午後1の手応えが良かったらからといって午後2ができるとも限らないのだが、この時の午後2を受験するときの心持ちは正直ずっしりと重いものであった。採点してもらえるかどうか確定していないものに本気を出すというのは気持ちの面でかなり難しい。それでもやるしかないのだからやるのだが。
ちなみに、なんだかんだ言っているが、この年の試験は自己採点の結果からも絶対受かったと思っていたので、午後1の不透明さが試験結果に与えた影響というのは微々たるものであったのかもしれない。とにかく落ちたわ。
過去問集である『ネスペR5』の解説としては、上記の3技術(4技術)の解説を読んで、試験を解答しているときにリアルタイムでわからなくてイライラしていたことが解消されて「なんて名著なんだ‼︎」と改めて感じた次第。午後2は実試験では問2を選択していて、今読んでもいつもに比べて簡単だったと素直に感じる。SAMLもケルベロス認証も【支援士試験】の時から得意としてした内容で、それほど深いことをツッコまれたわけでもないので、なんでダメだったのか正直今でもわからない。DNSのゾーン情報の穴埋め問題も超簡単だったし。
ネスペR4
私が落選した年のネスペ試験の解説本その②。
この年もまた、正直受かったと思っていた。特に午後1は試験中にすでに手応えを感じていて、ルンルン気分で午後Ⅱの開始を待っていた感すらある。事実、午後1は(私の中では)脅威の85点であった。何なら午後1受験時にすでに合格を確信していた(そして落ちた)。
午後2試験は「問1」を選び、正直私には結構難しくて高得点の望みはまったくなかったものの、資格予備校の解答速報を見る限りは、今までの経験上これくらいできていればまあギリギリくらいで受かるかな〜と甘い予想をしていた。だから「不合格」の三文字を見た時のショックと言ったら動かざること山の如しであった(意味不明)。
この年の反省点としては、「時間配分」である。午後2は2時間もあるのだが、間に合わなかったのだ。午後1のあまりの良い手応えぶりに、「よく考えれば今の自分に解けない問題などないわ!」みたいな慢心を抱いたのだった。そうしたら、よく考えてもわからなかったし、時間も無駄に浪費された。あのときの歯のガチガチ鳴らしっぷりはハンパじゃなかったね!
だから最後の方の問題は空欄で提出するという痛恨のミスとなった。が、「それでもまあいけるんじゃね?」 と思っていたこと自体に、人間としての愚かさ、弱さが凝縮しているといえる。
内容としてはVPNと仮想デスクトップ基盤を絡めた問題で、半年前に【情報処理安全確保支援士】に合格していたその自信から、セキュリティ関連のものを迷わず選択したという背景がある。
余談だが、この年の試験は試験終了直後から「問2」のサーバ仮想化分野であるコンテナ問題が簡単だったとTwitter上では話題沸騰であり、手応えに溢れる猛者たちが早くも「たぶん合格しました! がんばってきて本当に良かった!」みたいなフラグのようなつぶやきを全世界に向かって投稿していた。そうしたツイートをした方々が実際にはどうであったのかはもはや知る術はないのだが、とにかく私は落ちた。
落選後にこの問題集で改めて解いた限りでは、私にとっては正直「問2」もTwitterでそこまで盛り上がるほどに簡単だとは感じなかった。が、もし仮に他の受験者がよくできていたのなら、幾度となく私を救ってきた得点調整的なものは、今回はマイナスに働いたのではないかと予想する。「得点調整があれば受かるかな」という私の甘い考えにクギを刺すような回であったともいえる。
ネスペR3
私が落選した年のネスペ試験の解説本その③。
この年はどう考えても学習が足りなかったので、最初から諦めていた。しかし結果としては午後Ⅰ試験をギリギリではあるが通過していたので、得点調整の力の偉大さを感じた次第である。いや、マジで全然、まったく、これっぽっちもわからなかったので、午後1が通過しているのを見た時にはむしろ闇を感じる気持ちの方が強かった。
午後2もまったくわからなかった割には50点も取れていて、マジで意味不明である。
この年は午後1「問2」のOSPFに関する問題が激ムズで、問1解き終わったぜ……からの問2だ! といった感じで問題を選択した受験者たちの悲鳴がネット上にこだました。バックボーンエリアが二つあるとか、その二つのエリア0を結ぶ技術の名前は何だとか(ちなみに”バーチャルリンク”)、そんなもんテキストでは見たことも聞いたこともねーっ! という出題だったので、その断末魔の叫びの重みはよく理解できた。ネットワークエンジニアのための試験とはこういうものだという印籠を突きつけられたような問題であった。
ただこの年の私の気持ちとしては、ズブの素人から学習を始めた自分でも、まったく通用しなかったわけじゃなかった——ついにここまで来ることができたという達成感の方が強く、俄然やる気が湧き出てきた回となった。そのやる気のまま秋試験で【情報処理安全確保支援士試験】を受験し一発合格できたのは、このときに得たやる気、手応え、そして何より学んだ知識が生きた結果であると断言できる。ネスペの知識は支援士試験にほぼそのまま繋がっている。マジで無駄なものゼロなのだ。そして何より、支援士試験の方が間違いなく簡単である。
だから受験の順番としては、本来は【支援士】➡︎【ネスペ】の方が良いと思われ。
ネスペR1
私が初めて真っ向から勝負を挑んだネスペの過去問である。もちろんまったくわからなかった。
「Set-Cookie」とか「XFFヘッダ」とかもさることながら、「200 OK」すら意味がわからない、そんな時代が私にもありました。
少し特殊な平成28年度の問題集(※後述)を除けば、初めて購入したネスペ問題集だけに4年間で最も取り組んだ回数が多く、最もボロボロになった1冊である。そして、この本を手にした時の興奮は今でも覚えている。
ついにここまできたか——!
そんなワクワクでいっぱいであった。IT素人であった自分が、応用情報に合格し、ついにネスペへの挑戦権を獲得するところにまで上り詰めた——という自慰的な興奮に満ち溢れていた。もちろん別に飛び級でいきなりネスペを受験したって良いのだが、一つずつIPAの資格を取っていくと決めていたので、「ここまで来た!」感が己の中にとめどなく溢れかえった。
だから、内容は全然わからなかったのだが、そのわからなさにもとても良い意味での興奮を覚えた。未知のものへ挑戦するときの純粋なワクワク感がここに込められていた。そして、そのワクワク感はネスペの勉強のおいて最後まで失わなかった。勉強すること自体が楽しいのが私にとってのネスペなのだ。
この年の設問としては、ひと昔前まではネスペの定番ともいえたIP電話に関する出題があった最後の年だったのがひとつの特徴といえる。この年までは毎年のようにIP電話関連の出題が午後試験で課されていたので「SIP」とか「IP-PBX」とかを必死で理解しようとした記憶がある(そして理解できなかった)。
最も取り組んだ問題集であるが、何回取り組んでも新しい学びがあって、とても楽しい1冊であった(いつまで経っても覚えられなかったものがあるともいえる)。今でもこの問題集を見ると、ついにネスペへの本当の挑戦が始まる! と自分を鼓舞したときの気持ちを思い出す。
ネスペ30 知
2024年現在、後にも先にも「MQTT」に関して出題されたのはこの年だけである。「MQTT」の技術そのものに対して何か思い入れがあるというわけではないが、午後2問1のこの長文問題の在り方に衝撃を受けたことを覚えている。「新技術に関しては問題文の中で丁寧な解説がある」と左門先生は言うけれども、丁寧だからそれでOKというわけじゃなくね? とついつい反抗心をチラつかせてしまった。しかもこれに加えて後半では「OAuth」の図解も掲載されていて、やたらと理系っぽい問題となっていた(シングルサインオン自体はよくある問題なので難しくはないが)。
限られた時間で、まったく馴染みのない技術に関する長文の説明を読んで、理解して、問いに答えるというのは圧倒的なまでの国語力が必要であることが突きつけられた。その国語力には”図の読解”という、本当の意味での国語の試験にはない要素もあり、予備校のカリスマ国語講師でもそれなりに手こずるのではなかろうか。
もう一方の午後2問2も「OpenFlow」の複雑な図を数ページに渡って読み解く必要があるのだが、「OpenFlow」自体は過去にも出題されていてこの頃のちょっとした流行りの出題であったので、衝撃の大きさは異なったと思われる。この年に受験したなら迷わずこちらを選択していたことだろう。
もちろん今なら私でも「MQTT」の同じ問題なら時間内にそれなりの正解率で解ける(なんたって4年間で4回以上解いたわけだし)。しかし一方で、初見でこの問題を6割解いた人こそが「ああ、これがネットワークスペシャリストと名乗って良い人なんだな」と思った。
私は正直その域に達しないまま挑戦を終えてしまった。当たり前の話ではあるが、同じ”合格”という枠組みの中にいる合格者達の間にも、歴然たるランキングが存在するということだ。90点以上での合格と60点ちょいの合格とではセルとクリリンくらいの実力差があるといえる。
余談だが、左門先生がこのネスペシリーズで合間合間に挟んでいるコラムにおいて「試験本番で緊張しないためには?」という問いに対して「かわいい子を探す」と答えていて、市民マラソン大会で自己ベストを出すには? という問いに対して「自分よりちょっと速い女の子のお尻を追う」と答えていたあんまり好きじゃない先輩の顔を思い出した。
ネスペ29 魂
この年度の左門先生の『ネスペ』の最大の特徴は、大問と大問の幕間ともいえる”間奏”部分に左門オリジナル小説を挟んで進行させているところである。そしてこの小説がつまらないので、読んでいてなんとも言えない気持ちになるのであった(´・ω・`)
ストーリーとしては、ネスペ合格を目指す大学院生のキャンベル樹里ちゃんとネスペセミナー講師である超スマートな振る舞いの左門先生が、ネスペ合格を賭けて勝負する——みたいな内容である。で、平成29年度の問題に引っ掛けていろいろとやりとりする問答方式でストーリーが展開されてゆく。
で。
左門先生は本当に偉大な人で、左門先生のネスペシリーズ無くして私のような雑魚人間の合格はあり得なく、左門先生の「ネスペに挑戦する人の助けになりたい!」という志がなければ私の合格などありえなかったであろう。本当に本当に心の底から恩人だと思っているのである。
が。
それでも小説の才能は、少なくてもこの頃はないと思う。本当に面白くないのですよ。。。
後述する”総評”でもコラムについて言及しているが、左門先生の世界観には共感できないというか、単純にあまり私の心には届かないものが多く、我々は出会うべきじゃなかったのかもしれない……(別に会ってはいない)
この年の特徴としては、平成30年度で続くように連続出題された「OpenFlow」が初出題された。平成30年度の受験者は前年度にあたるこの過去問に取り組んでいた人が多いと思うので、該当する人は迷わず「OpenFlow」を選択したと思われる。その点で、改めて過去問演習の重要性がわかる事例といえる。
あと重要な点として、平成29年ともなるともう7年前にもなるので、SSL-VPNで使用されているTLSのバージョンが1.2だったり、世界的にクラウド全盛の昨今では頻出ともいえるくらいよく出題されようになったBGPの話が珍しそうに語られていたりと、正直時代を感じるようになってくる。情報技術は常に技術革新が著しいものであるので、私のように「ネスペシリーズを全踏破したい!」みたいは意気込みの者は、ネットワークに対してというより”資格試験”に対してマニアックな姿勢であるといえるような気がする。要は効率的ではないし、資格試験が求める本質からはズレているということだ。
この後に続く『ネスペの基礎力』もそろそろ改訂の時期なのではないかと個人的には考える。改訂するなんて超大変だろうけど。
ネスペの基礎力 プラス20点の午後対策
私がこの本に対して最も言いたいことは、「基礎力と謳う割には平成28年度の問題は難しい」という点である。例えば、確かに前半の収録されている解説でVRRPに関して基礎的なことから丁寧に説明しているのだが、そこで得た知識でこの本に掲載されている平成28年度の過去問に立ち向かうとあっさり返り討ちに遭うことだろう。VRRPは基本的にルータの冗長化技術として説明されるし、この本の前半の解説でもそのように説明されている。が、28年度の問題ではメールサーバの冗長化技術として利用されている(しかも複雑)。つまり、前半の技術解説を隅々までじっくり読んでも、同じ本に掲載されている過去問が解けないのだ。これがすげー辛かった。
左門先生が本書内で語っている言葉をお借りすれば「気力・体力があるうちに基礎力に焦点を当てた本を書きたかった」ということなので、たぶん、書こうと意を決したときがたまたまこの年度であっただけで、問題内容からこの平成28年度が「基礎力」に焦点を当てた本に掲載する過去問として選ばれたわけではないのだろう。
個人的には「応用情報技術者試験」に出てくるネットワーク分野の問題の難易度と、ネスペの難易度の中間くらいに位置する試験とかがあれば、ちょうど良く「ネスペの基礎力」を語る本として成り立ったのではないかと思っている。そうの観点ではやはりそれは【支援士試験】が該当すると考える。
左門先生も今では『支援士シリーズ』を執筆されているので、そちらと併せて勉強していくのが今後の王道になるかもしれない。
ネスペ27 礎
個人的で勝手な予想ではあるが、令和6年現在では、平成28年以前の問題に取り組むネスペ受験者はほとんどいないのではないか考える。理由は上記の『ネスペの基礎力』存在である。この過去問集が平成28年度の問題を取り扱っているので、ネスペ受験者は最初に『ネスペの基礎力』に取り組み、以後は28年度以降の過去問に取り組むと予想されるからだ。
平成27年度の試験内容としては、今となってはそれほど珍しくない出題内容となっている。個人的に珍しいと感じた点は、午後2問1でブレードサーバが出てきたり、「接続を追記し、図9を完成させよ」という図を作成させる問題があったりと、その辺が「今にはない文化だな」と思うくらいである。IKEのバージョンが古くて今は亡き「ISAKMP SA」とかが出てくるので、過去問演習としてももう現代では適さないかもしれない。
ちなみに巻末のオリジナルマンガ兼小説のストーリーはやっぱり寒くて登場人物達の白々しいやり取りになんとも言えない気持ちになってしまうのだが、「ネスペの知識で謎を解いていく」という受験者の心をくすぐる演出になんらかの涙を堪えながらつい最後まで読んでしまうのだった。
ネスペ26 道
この頃はまだ現在の構成スタイルがまだ定着する前で、現在では巻頭に収録されるピックアップされた技術解説が巻末に収録されている。その解説で取り上げられているFWの冗長化もあまり出題例がないので、その点でも珍しいといえるかもしれない(出題がないのはFWはVRRPではなく各ベンダの独自技術で冗長化されるからだと思うが。VRRPではステートフルインスペクションでのセッションを引き継げないので)。
正直、この年の試験は割と簡単だったと思う。そこまで面食らうようなテーマは皆無で、過去問演習が実を結びやすい出題内容であったといえる(まあ現在から見た視点でそう感じるだけなのかもしれないが)。
巻末のオリジナル小説は、相変わらず文体というかテイストに素人味があって読んでいてゾワゾワっとする言葉にならないものを感じるのだが、IPA試験に長年臨む者が誰もが一度は想像したことがあるであろう”替え玉受験”に対して、誰もが一度は想像したことがあるであろうやり方で言及されているのが見どころとなっている。
簡単にいえば、IPAの試験は「試験中に顔写真の確認はするが、別に免許証等で本人確認をするわけではない」という誰も言わないが誰もが認める瑕疵があるので、「顔写真だけ変えて替え玉受験すりゃ良いじゃん」と単刀直入火の玉ストレートなやり方を(悪役が)伝授している。
まったくエビデンスはないが、過去実際に一度もこの不正が行われたことがないなんてあり得ないんじゃね? と個人的には正直思っている。
ネスペの剣25
左門先生の名を世に知らしめた始まりの書(前身となる『ネスペ23』等はあるが「左門至峰」名義ではない)。書名の由来はドラクエの「てんくうのつるぎ」みたいに、ネスペ資格を最強の武器として欲しいという願いかららしい(だから「ネスペのつるぎ」と読むらしい。「けん」ではなく)。
この年が何気に「OpenFlow」の初登場回であった。それで選択し合格したなら、それは真の”猛者”と呼ぶに相応しいネットワークスペシャリストである。
現在のネスペシリーズのスタイルを甘受しているとちょっと読みにくかったり物足りなかったりするところもあるが(受験者の復元解答例が無いなど)、やはり源流はここにあり! といえる完成度がすでにある。幕間に挟まれる左門先生のコラムがいまいち心に響かない源流も既にある。変わらぬものの良さがここにはある。
出題内容としては先述の「OpenFlow」以外は特段真新しいものはないが、やはりこれも現在からの視点の話であり、当時の人たちは「OpenFlow」以外の問題にも面食らっていたのかもしれない。ネスペシリーズを通して過去問演習に取り組んだ経験が十分生きる内容である。この当時、ネスペシリーズないけど。
手を動かして理解する ネスペ[ワークブック]
R5年度受験のとき(あと1点届かず不合格)は、4月に入った第2週の初めあたりでネスペシリーズを全巻やり尽くした感が出て、残された時間に何する? しかしそれほどは時間も残っていないぞ? という状況で手を出した最後の一冊がこれである。結論からいえば、非常に良い本であると感じた。
ネスペに対して基礎段階の人が取り組むにもちょうど良いし(最初は全然わからないと思うが)、私のように総仕上げの確認作業に使うのもかなりマッチする。過去問をやり尽くしたな〜と思っても、この本の問題を解いていくと意外と忘れてしまっている基本事項が洗い出されていく。
資格試験の世界ではよく「目の前に現れる問題には、次の3つしかない」と言われている。
①解ける問題
②解けない問題
③解けていたけど今は解けない問題
この中で、③が洗い出されていく感じである。
また解き進めていくのに、午後問題の過去問に取り組むときほどの気合が必要なく、ほどよいボリューム感なので、試験直前の調整期間にほんとちょうど良い感じであった。過去問をやり尽くしたと思える後に取り組むと、端的に言えば「楽しい(*´∇`*)」と思わず顔文字を使っちゃう感覚で楽しみながら知識を補完できる。
あまり取り上げられることがないが、とても良い問題集だと思う。
総評
ここで改めて、ネスペ合格者たちの誰もが触れない禁断の領域に踏み込みたい。
「ネスペシリーズのコラム、いまいち心に響かなくね?( ・∇・)」という禁断の領域に。
この気持ちを私の足りない頭で頑張って言語化してみると、「聞いてもないことを話してくるおっさんの自分語り」を聞いているときの気持ちに割と近いものがあるんじゃないかな、という感じだ(まさに私のこの記事のことでもある)。
いや、なんか左門先生結構卑屈だなぁ〜というか。
先生が多くのコラムで語っていることとして、
- 若い頃、自分は実力を正当に評価してもらえなかった。
- 資格取得によって実力を証明して周囲を見返した。
という2点がある。で、「今では大きな仕事を任せてもらえるようになった。お客様にも感謝してもらえるようになった。出世とは無縁の人生だけどね(笑)」みたいに続くのが定番である。
別にそのこと自体はまったく疑ってないし、きっとそうなんだろうな〜と思うのだが、なんか”飲み会の席での上司の武勇伝”を聞かされている気分になってしまうのであった……って私だけですかね?
左門先生としては恐らく「資格は有用だ!٩( ‘ω’ )و だから資格試験の勉強を頑張っている君の努力は素晴らしい‼︎」ということを伝えたいが故の自分のエピソード紹介だと思う。が、私がエンジニアの世界とはまったくの無縁の世界で生き、資格取得は完全に趣味の世界であることが災いしているのか何なのか、どのコラムを読んでも全然心に響かないのであった。
さらには。
繰り返しになるが、シリーズの巻数も重ねてゆくことによるマンネリ化を防ぐためか、左門先生執筆のネスペを題材とした「小説」が2回ほど登場する。これが、ごめんなさい、シンプルにマジで全然面白くなくて、どうして良いかわからなくなるですよ……
ただ、その小説を通して情報処理技術者試験の「替え玉受験」のやり方が紹介されていて、この試験の闇の部分が紹介されているという点では、非常にためになった。とフォローを入れておきつつ(フォローになってる?)。
ネスペシリーズは本当に素晴らしい過去問解説本であることは疑う余地はない。問題集というより一冊の本として、私はファンで好きだから、全巻揃えて読み込んだ。それくらい心酔しているし、左門先生への尊敬の念は私にとっての司馬遼太郎へのそれに匹敵するくらいである。
ただ、だからこそ——コラムとか小説とかの創作系の文章は、少なくても平成年代の頃は向いて無かったんじゃないかな、と率直に思ってしまったこの想い、モヤモヤを、この試験からの卒業を前にどうしても成仏させておきたくて、ここに記した次第である。はい。
↓ちなみに令和5年に満を持して発売された左門先生著の小説があります。Amazonでの評判は超良いです(私は未読)。(追記)ネスペR6
私が合格した令和6年度試験の解説をした『ネスペR6』に、私の復元解答を掲載していただきました。
うれピー。
個人的に思うこととしては「対向のPEルータのIPアドレス」という解答に”◯”をもらっているが、これ「対向SD-WANルータのIPアドレスじゃなくて良いの?」と自分の解答に自分でツッコミたい所存である。IPsecトンネルの接続先の終点はSD-WANルータだからである。ただまあ、大きな意味ではPEルータのIPアドレスも知ることとなるので、”◯”としてくれたのかもしれない(実際の得点と予想点との兼ね合いもあって)。
私の午後Ⅰの特典は「66点」なので、上記の予想点合計が正しいと仮定するなら、もう一つの選択大問「問1」の得点が37点ということになる。正直そんなに取れたかな〜と思って自分の復元解答を見直してみたら、取れていたかもしれない。自分頑張ったんだな〜、となんとなく自分を褒めてあげた。
試験当日のあれこれ
ここからは試験日本番の所感と私のルーティーン、心構えのようなことをダラダラと述べてゆく。基本的には参考とならないが、私の私による私のための記録でしかないと割り切って読んでいただきたい(究極のわがまま)。
午前Ⅰ
必ず免除を勝ち取っておきましょう!
これは必須です。マストです。Twitter上には午前1から受験して見事合格を勝ち取っている猛者もおりますが、ここで落ちたがためにツイッタランドに浮上して来ない黄泉の国の人々が最低その100倍はおりますので、なんだかんだでイケるんじゃない? などと思ってはいけません。市民マラソン大会でわざわざ最後尾からスタートするくらいのハンデがあります。
午前1の免除獲得には
- 応用情報技術者試験に合格する
- 何らかの高度試験を受験して午前Ⅰを突破する
- 他の高度試験に合格する
のうちのいずれかを2年以内に達成していることが条件となる。
ちなみに私は応用情報合格から3度ネスペに落ちている——つまり2年以上経過しているのだが、秋試験の【支援士試験】や【プロマネ試験】に合格したことによって首の皮を辛うじて繋いだ。だから今年が実質ラストチャンスであったといえる(秋試験で何かに合格できれば話は別だが)。
免除獲得は、午前1の内容(応用情報の午前試験から抜粋された問題)を勉強しなくて良いというのもさることながら、午前Ⅱから試験に参加すれば良いので、10時半くらいに会場に着けば良いことになり、試験当日の朝がかなり余裕になるのも魅力である。朝一番で神社に合格祈願のお参りなんかが余裕でできてしまうぜ!
午前Ⅱ
ネスペは伝家の宝刀「過去問道場」に午前2の問題があるので、それをひたすら周回すれば無問題。
名人位を獲得する頃には、問題を読まずとも選択肢を見るだけで答えが分かる域に達することだろう。
情報処理技術者試験の高度試験に挑戦している者の誰もが心の内で密かに怯えていることは、「過去問道場にない試験に挑戦することになったらどうしよう……」である。ITストラテジストとかシステム監査技術者とか。
どうしようったって、他でどうにかするしかないのだが。それくらい、過去問道場は偉大だ! ということである。
昼食休憩
寝ましょう。
午後は脳みそがちぎれんばかりに消費されます。少しでも抗うためには、睡眠が不可欠です。
お腹いっぱい食べるなんてもってのほかです。タンパク質を摂って、糖の消費に備えてアーモンドチョコを2粒食べれば十分です。あとは寝る一択です。学生時代を思い出して机に突っ伏しましょう。
午後Ⅰ
大問が3題出題され、そのうちの2題を選択する。
言うまでもなく問題選択が生死を分ける生命線となる。が、正直吟味しているような時間もまた、無い。
よく「最初の5分で問題をざっと見て、自分と相性の良さそうなものを選びましょう」みたいなアドバイスを見かけるが、5分見たところで正直全然わからんね。これを提唱している人のことを正直バカなんじゃないかと思っている(すげー直截的な表現)。何かアドバイスしなきゃーという義務感から適当なことを言っているとしか思えない。
それよりも5分という貴重な時間を消費する方が恐ろしい。午後Ⅰはとにかく時間が足りないのだ!
たぶん多くの人は「問題の最初の方にある穴埋め問題が解けそうなやつ」みたいな選択基準でザッと選んでいるのではなかろうか。苦手意識の強いテーマの大問は一瞬見ただけで分かるので、逆にそういう問題が1題ある方が迷わずに済むくらいである。ただ例えばR5年度などは、3問とも過去に一度も問われたことのない新技術を絡めたテーマだったので、どれを見ても絶望したことをよく覚えている。
R6年度は問1「CDNとBGP」、問2「SD-WANとIPsec」、問3「プロキシPACとローカルブレイクアウト」みたいな構成だったので、過去問で馴染みのある問1、問2を選択した。「ローカルブレイクアウト」は過去に解説書を読んだことはあったが過去問で触れたことがまったくなかったので避けた形となる。つまり問1問2を選んだというより、問3を避けただけともいえる。
よく「新技術の出題は問題文に丁寧な説明があるので、よく読めばわかるはず」という解説を左門先生がされているのだが、読解力があればそれも可能でしょうけどというのが私の実感である。いや、誰もが思っていることではないだろうか。それくらい時間的制約が厳しいのが午後Ⅰである。
午後Ⅱ
大問が2つ提示され、2時間で1問を解くというシンプルな構成。
問題文だけで8ページくらいある大長文なので、こちらも「5分で全体像をざっと掴んで選択する」なんてことはとてもできない。ただ「テーマ的にどちらが得意か」という判断は、午後1の3問中2問を選択するよりは容易にできるだろう。まあそれが仇となって過去令和4年度の試験の時は、「コンテナ」という未知のテーマにビビって、割と得意意識があった「セキュリティ」の問1を選んで爆死したのだが……(問2の「コンテナ」の方が簡単だっという評判が試験直後から上がっていた)。
本年度の試験では実は情報処理技術者試験の長い歴史上、非常に稀有なことが起こった。設問不備により問題が抹消されたのである。午後Ⅱ問2設問5の小問3問がそれにあたり、午後Ⅱ問2は何を隠そう私が選択した大問である。
実はこの設問不備は、令和6年度試験の半月後くらいの割とすぐに、とある専門家によって指摘されていた問題であった。
ただ、私含めたネスペ受験者程度の人間の多くはこの記事を読んでも、
内容難しすぎてようわからん
( ゚д゚)ボーゼン
となったと思われる。だから、個人的な感覚では、IPAが不備を認める発表をするまでこの記事がそこまで盛り上がることもなかったし、こういっちゃなんだが有識者たちが「そーだそーだ! この記事に書いてあることが正しい!」と援護射撃で喝采するようなこともなかったように思う。
盛り上がらなかったのには3つのポイントがある。
- 指摘内容を真から理解できる技術者は実は少数
- たとえ指摘が正しいとしてもIPAは不備を認めずしれっと流すと思っていた、みんなが(倒置法)
- 「電子署名は秘密鍵で暗号化して送信し、受信者は公開鍵で復号して正当性を確認する」というデマにみんな(ネスペ受験者レベルの人たち)疑問を抱いたことがそもそもない。各社予備校の解答速報でも余裕で「秘密鍵で暗号化、公開鍵で復号」と書いてあったのがその証左。加えて、今までの他試験の過去問でもそれが正解になってきた(応用情報とか)。
この3つは重みづけ不可能なほど、どれも的を射ているはずである。
①に関しては改めて指摘記事を読んでみても未だもって私程度の人間には難解で理解できない。が、なんとなく理解した一部分を要約すると「電子署名というのは、秘密鍵で演算した結果を公開鍵で演算するとこんな値になるじゃんね?(三河弁) ってので正当性を確認するもの」だということだと思われる(間違ってたらごめんなさい)。暗号化したものが復号できるかどうかではなく、「一連の処理をするとこんな値になるはず」という演算結果が正しく出力されるかを見ているということだ。”ハッシュ値を取り出す”とかそもそもねーよ、みたいな。
②に関しては、今までも実は”怪しい設問”というのは度々登場していたことに由来する。左門先生をもってしても「何を訊いているのか掴みにくい」「実務の現場では一概には解答例のような答えにはならないと思う」という解説がなされた設問が数々ある。が、左門先生の一貫したポリシーとして「作問者は神様なので逆らってはならない」という言い回しで、「問題の不備っぽいことに文句を言うことの無駄」を受験生達に説いていた。このことは、暗にIPAは間違えや不備を認めないと諭しているようにも取れ、事実、高度試験に何度もチャレンジしている受験生の多くは「情報処理技術者試験とはIPAが求める解答を答える試験である」と割り切るように思考を矯正されている。
その神様であるIPAに、外部の専門家がぐうの音も出させずに間違いを認めざるを得ない風穴を開けたのだから、真のネットワークスペシャリストとはこういう専門家のことを言うんだろうな、と心の底から思った。
③に関しては、そもそもこの「秘密鍵で暗号化したものを、公開鍵で復号して正当性を検証する」という一連の流れは、ネスペだけではなく(ペーパーテスト時代の)基本情報技術者や応用情報技術者、セキュリティマネジメント試験でも過去に出題されていたオーソドックスな電子署名検証の流れである。私は試験をカテゴリレベル1から一つずつステップアップしてきた人間なので、この流れに疑いの余地を挟む余地など1ミリもなかった。今後どうなっていくんでしょうね、電子署名の問題の答えは。
そんなわけで前代未聞のケチがついた午後2問2であるが、受験生にとっては不備自体が云々というより、最大の問題は自分の試験結果にこれが吉と出るのか凶と出るのかである。結論を先に言えばそれはやっぱりわからないというところで、IPAはそもそも配点を公開しないので「問2選択者は設問5(1)〜(3)を全員正解とする」という措置が宣言されたところで、極端な話本当に加点したかどうかわからない。加えて、仮に加点されていたとしても、例えば1点ずつにしかなっていなかったら全問正解していた受験者にとっては大きなマイナスとなる。そして正直設問自体は全然難しくなかったので、該当箇所を3問とも正解できていた受験者は大勢いたであろうことが推測される。
また、IPAの試験は合格率を維持するために偏差値的な得点調整をしているというのは公然の秘密となっている。つまりは問1選択者との兼ね合いもあるなかでの不備問題の配点となる。
つまり、「全問正解措置」で得をした合格者というのは、いたとしても超少数派なのではないかと推測できることになる。例えば、超ざっくりいえば「設問1〜4でかろうじて合格圏内に入るか入らないかの正解率で、かつ、設問5が一問も解けなかった人」みたいな受験者である。しかし、そんな人は正直ほとんどいないと思うのである。設問5は(IPAが想定したであろう解答なら)超簡単なサービス問題ともいえるような3問だったからだ。
だから、問2選択者でギリギリの点数で不合格——例えば昨年度の私のように59点で落ちた人とかは、このケチのつき方には絶対に納得できないだろう。ケチが付かなくても納得できなかったんだから、設問不備なんてケチの付いた試験に納得できるはずがない。何度も言うが、どう考えてもこの設問不備が救われる方向の得点調整に繋がるパターンはよっぽどレアなのだ。
それでも私が心穏やかに語れているのは、どんな形であれ「合格」の二文字を獲得したからに他ならない、正直、もう一度受験して受かる自信など微塵もないので「ケチがついて納得できないからもう一回受験する!」なんて気概は1ミリも有してはいない。合格できてすべてがハッピーである。
ただ、今回の試験でギリギリで落選した人の気持ちを考えると、陰鬱な気持ちとなる。59点と60点とでは、目の前に広がる世界がまったく別のものであることが合格した今だからこそより具体的に見える。
ネスペ受験 総評
最後に述べたいことが2つある。
まず言いたいのは、結局は私の今回の合格は、運の要素が大きかったという点である。私のように実務経験のない、かつ、仕事も大学も非IT人生だったネスペ受験者が過去問だけをやり込んで挑んでも午後試験は60点前後の壁を抜け出せないだろうということだ。
合計4回の受験を経て、年々勉強量や理解力はかなり蓄積されていったという自負があるのだが、午後1午後2試験の点数としては各年そこまでの差がないまま終わってしまったというのが現実としてある。初めて受験したときは何もわからないのに点数が取れすぎていて、以後回数を重ねる度に理解が深まっていった実感があったのにそれが点数には現れていないという現実がある。
結局はこの試験の本質は現役エンジニア向けのものとなっており、国語力を主体として挑む私のようなニワカには本質的なところで足りない何かがあるように思う。実機を触るとか、実際にネットワーク設計をしてみるとか(仮想環境でも良いので)、手を動かして学ぶ時間が本当の理解に繋がり、そういう取り組みをした人だけが70点以上の世界を見ることができるのではなかろうか。
つまり、非IT従事者のペーパードライバー受験者は、最後は運なのだ。自分がそれなりのレベルで解答可能な分野が出題されるかの運、採点者が誰なのかの運(甘めの人か辛めの人か)、その年の受験者レベルの運(偏差値的な得点調整)……
これは、何度受験しようが「まず午後1通ってるのかな……」という毎年の不安からは卒業できないということを意味する。言ってみれば、最後は日頃から徳を積んでいるか否かが試されるのである。その”運”に左右されたくなければ、過去問演習にプラスαの学習が必要となってくる。机にテキストとノートを広げるだけではない、プラスαが。
もう一つは、「技術の進歩が、過去問を”過去”のモノにする」という点だ。
例えば、ひところは毎年必ず出題されていた「IP電話」の問題はもう出ないんじゃないかな〜という印象がある。基本的に「クラウド」や「EC」といった最近の流行りに合わせた技術が問われることが多く、「IP電話」はもう一昔前の技術といった感じなのかもしれない(現実ではガンガン使われているが。LINE通話とか)。特にR5年度とかは午後Ⅰが今までに出題されたことのない新技術に関する問題だけだったのは、「過去問演習だけじゃだめだかんな〜」とIPAが橋本環奈ばりに伝えて来たメッセージなのかもしれない。
以上2点を踏まえて、ネスペ試験の受験指南の一つとしてよく挙げられるのは『日経ネットワーク』の購読である。
これを読めばネットワーク技術の「今」が分かることは請け合いである。が、現実としてネットワークエンジニアやインフラエンジニア以外の人が好んで読んでいることはほとんどないと予想している。ネスペ受験者であったとしてもだ。
ただ今後は、コロナ禍を期に技術トレンドが大きく推移した現在に対応したネットワーク技術がますます出題されることが予想されるし、ニコニコ動画を始めとしたランサムウェアの被害やVPN装置の脆弱性を突かれた不正侵入事件の急増からかセキュリティ分野を絡めた出題が現在でもすでに増加傾向にあることを鑑みれば、トレンドを追うこともある程度は必要になってくるのかもしれない。いくら「新技術に関する出題には詳細な解説がなされる」と言われても、例えば「OpenFlow」の初出題時に初見で対応できた受験者なんて”本物のネットワークスペシャリスト”くらいだったと思うのである。
そしていつかは——ネスペ受験者の誰もが心の中では誰もが恐れている——IPv6が午後問題で問われる日がそう遠くない未来にやってくるだろう。私はそれが恐ろしく、早く一抜けしたくて必死になっていたところがある。そのXデーがいつかはわからない。が、わからないだけに、「準備をしておかなければならない」という負担をどこまで許容できるかが問題である。
まあ多くの人は「出題されても1問だけだろう→とりあえずその年は選択しなければいいや」と考えているだろうから結局深く勉強する人は誰もいないと予想しているが、逆に言えば勉強しておけば強者になれる分野であるともいえる。R5年度の午後1試験の流れから、すぐにでも出題されてもおかしくないと個人的には思っている。
そして何より、IPv6に関しては試験云々抜きにしても、何らかの形でネットワーク技術に従事するなら今後のために絶対に勉強しておくべき分野であるといえる。そうわかっているのに結局最後まで(合格するまで)その機会を作らずに戦いの終わりを迎えた私は、”ネットワークスペシャリスト”と名乗るには到底相応しくない人間であることを、誰よりも自分がよくわかっている。
まあ、名乗るけど。恥も外聞もなく。
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