邪道【第25回国民体育大会 岩手国体(1970年)】 記念メダル

第25回国民体育大会 岩手国体記念メダル
38ミリメダル

国体の存在価値 〜君にとって僕はどういう存在なのか〜

 【第25回国体 岩手国体】とは、1970年の夏季〜秋季に岩手県で開催された国体である。ちなみに1970年の冬季は北海道と長野県で開催されている。1年中国体を開いているというのが現代と感覚が違うところである。

古い国体記念メダルを何枚か紹介したが(第27回第28回)、その頃の国体を調べると、「国体って盛り上がってたんだな〜」という感想を抱く。正直、現在では国体って「競技者しか盛り上がらない大会」であるという肌感覚がある。毎年どこかしらで開催されているはずなのだが、どこでいつ何をやっているのかというのを全く知らない。一般人が全く知らないのは、要はメディアが取り上げない——ひいてはテレビが取り上げないからだと思われる。取り上げたとしても、夜中のスポーツニュースでほんの数秒、大会結果だけを超ダイジェストで流す程度で、思い出どころか短期記憶にも残らないせいであると思われる。そうなると、結論的には「自治体はなぜ国体を誘致したいのか」という疑問が湧く。一般的な答えとしてはもちろん「経済効果」「自治体の名誉」「インフラ拡充のきっかけ」といったありふれたものが出てくるだろうが、現在の感覚では「ほんとにそんなもんあるの?」と疑問に思ってしまう。「インフラの拡充」等は自治体のさじ加減だろうが、経済効果や国体優勝の名誉などは現代ではものすごく希薄なのではないかと考える。むしろ、それなのに国体開催の名目でインフラ拡充等に税金をつぎ込むことに批判的な意見が出てきそうなくらいである(私はサッカーやフットサルをプレーするので体育館や運動公園が整備されるのは歓迎なのだが。なぜなら公共施設は利用料金が安いから)。

 国体の意義というのもちろん問われていて、上記の問題の他に「開催県が総合優勝する慣例」等も含めて長らく批判的な意見はあり続けている。が、少なくてもあと10年間は開催県がすでに決定されているので、すぐになくなることはありえない。とすれば、必然的に開催の在り方が問われる続けるわけだが、大きな改革を期待するのも難しい。せっかく開催するのに自分の時だけ総合優勝できないのは嫌だし、どうせやるならインフラ整備だってやりたいよね〜と思うのは人情である。それを打破しようとしたのは何を隠そう第71回大会の岩手県なんだけど、長くなるので割愛。

 全てのことに説明をつける一言は、「時代は変わった」ということである。昔は、現在のように各種競技の全国大会的なものがそもそもなかった。だからこそ国体は様々な競技を幅広く取り入れて、日本一を競う場を提供することに意義があった。しかし現在では、一般人がほとんど知らないような競技でさえ、関連団体・協会が全国大会を開催し、その競技の普及に努めている。本当に名も知らないような競技であれば仮に「国体に採用された!」ということがあればビッグニュースになるかもしれないが、現在ではメジャーなスポーツであればむしろ国体はおまけのような位置付けとなっている。

 競技者にとっては「国体に出場!」という肩書きは現在でもネームバリューのあるものではあるんだけどね〜

まだ国体が盛り上がっていたあの頃、「アマチュアとは何なのか」で世界は揺れていた

 第25回大会で問題となったのは、「クレー射撃アマチュア違反問題」である。これは「プロとアマとの明確な線引きとは何なのか」という問題でもあるし、汚職の問題でもあるし、競技団体の内ゲバ的な問題でもあるし、開催県の利益の問題でもあるという、非常に複雑な話であった。

 問題となった経緯を簡単に説明すると、第25回大会の開催前に、「SKB」という銃と装弾のメーカーが主催するクレー射撃大会に出場した選手が「アマ資格停止処分」という厳罰を受けたことに由来する。SKB主催のこの大会では、選手はSKBのユニフォームの着用が義務付けられ、賞金が掛けられていたりテレビ等の高額な賞品も授与されていたりした。このことが「アマ規定を明確にしておく必要がある」という理由に至り、厳重処分となった。

 で、なんやかんやとあったのだが(壮絶なまでに雑な説明)、「もともと協会と特定のメーカーとの癒着が指摘されていた。SKBは協会役員に金の支払いを拒否していた」「協会役員が賭博容疑で逮捕された」等々、そもそもクレー射撃協会のアマ団体としての在り方がほんとダメみたいな話が暴露されていった。なんか最近あったアマチュアボクシング協会の話に通ずるものがあるよね〜。

その混乱で、一時は「岩手国体のクレー射撃は出場取消かオープン参加」という流れになったのだが、それでも腹の虫が収まらなかったのはアマ資格を停止された方々で、「大会でクレー射撃が行われたら、大会期間中でも違反者を指摘する」という、恐らくは処分された者からの脅しに近い話があがり、戦々恐々とした国体委員会はクレー射撃自体を「除外」することへと傾いた。しかし今度はそれに黙っていなかったのが開催県である岩手県である。「もう準備しちゃってるし! 除外にするなら、同じ会場でやる他の競技もやめるし!」と猛烈に怒ってきた。ただこれには含みがあって、岩手県はクレー射撃で上位入賞が可能であるという算段があったので、「開催県が総合優勝する」という例の慣例を守るためにも、なくなっては困る競技であったのである。

 アマチュアスポーツとしての筋を通すか、開催地への筋を通すかで揺れた国体委員会は、結局「開催地への筋」を選んだ。まあそうなるかなと個人的にも思う。現在のようにネット社会でもなくコンプライアンスがこれほどうるさく叫ばれていなければ、数年に渡って準備をしてきた開催県の意向を汲むのが自然な心情であると思われる。気持ちだけの面ではなく、人出も費用もそれなりに掛けて準備してきたことなので、無下にはできないだろうと考える。

 そうしたドタバタ劇の中開幕した【第25回岩手国体】であるわけだが、開催するやいなや、クレー射撃からは27名にも及ぶ出場辞退者が発生した。いずれも、アマ資格審査結果で疑惑のある選手達であった。

 ここで終わらないのがこの問題の根の深いところで、結局は「最初にアマ資格についてあーだこーだ騒ぎ始めたクレー射撃協会自体がうさんくさい」ということがあり、JOCと日本体育協会から除名する、という国体だけでは終わらない方向でも動き始めた。しかも間の悪いことに、翌年には「世界クレー射撃選手権」の日本開催が決定していて、「JOCを辞めるとクレー射撃の国際機関への加盟資格も失う」という事情もあり、事態は混迷を極めた。この問題は結局「開催返上」という類を見ない手段でことなきを得たが、国際的なスキャンダルにもなり得るトラブルにまで発展したといえる。そこまで騒がれなかったのは、結局、マイナースポーツであるからなわけだが。

 現在ではどのようになっているのかは、調べればわかるのだが、めんどくさいので割愛。

記念メダルについて

 控えめに言って、非常に面白みのないデザインである。特に裏面の「チャグチャグ馬ッコ」が一際「ああ、記念メダルってマイナーな趣味だなぁ」感を醸し出している。ちなみに「チャグチャグ馬コ」とは、岩手県で毎年6月の第2土曜日に開催されるお祭りのことである。簡単に言えば農耕に関する祭りで、100頭を超える馬を連れて鬼越蒼前神社から盛岡八幡宮までの15キロを4時間以上かけて練り歩くという内容である。農耕に使われる馬の勤労を感謝する意味をもつらしい。

 その馬がこれかいみたいなデザインで、とてもイマイチである。

 おもて面も、シンプルといえば聞こえは良いのだが、どうにも古臭さが滲み出るものとなっている。まあ実際に古いのだから当たり前なのだが。「誠実・明朗・躍進」というスローガンが時代を感じさせるものである。

 ——と、現在の記念メダル達も、40年後には言われるのかね〜。

記念メダルの変遷的にもなかなか興味深い一枚で、このメダルは38ミリメダル(デカメダル)なわけだが、【第27回 太陽国体】【第28回 若潮国体】はともに31ミリメダル(通常メダル)である。そうなると、【第25回大会】のメダルがどの大きさのメダルのものか気になるところであるのだが、残念ながら未所有なため不明である。これが分かれば、38ミリから31ミリへと移行したおおよその時期がさらにはっきりしてくる。

 とにもかくにも、こんなにも古い時代の記念メダルが現存されていたことに感謝である。興味がない人にとっては真っ先に不燃ゴミ行きとなりそうな物であることを考えれば、君と出会えたことこそが神さまから僕たちにプレゼントされた奇跡だね! という良いこと言おうとして失敗している締め。

 




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