イベント【平城遷都1300年祭】 記念メダル

平城遷都1300年祭 記念メダル せんとくん 銀
平城遷都1300年祭 記念メダル 太極殿正殿 金

 「ゆるキャラ」というものの難しさを考えさせられる存在――せんとくん。

 「ゆるキャラ」というカテゴリーの命名者はみうらじゅんである。しかし、そのみうらじゅんですらここまでの広がりを見せることは予想していなかったことであろう。俗に「ゆるキャラブーム」と言われる一大ムーブメントは滋賀県彦根の「ひこにゃん」から端を発し、様々なご当地のゆるキャラが乱立された時期があったが、今ではそのブームもだいぶ落ち着いた。しかし、決して廃れたわけではない。市単位の祭りにいけば必ずといって良いほど今まで知らなかったその街のゆるキャラと出会い、なんとなく子供に大人気となっているのが通例である。

 お祭りではなんとなく人気で人が寄ってくるけれど、全国展開&町おこしの野望でそれなりの予算を掛けて創作した割にはイマイチ経済効果が上がらなかったというのが、9割方のゆるキャラの命運であった。その典型例が、浜松市のゆるキャラ「出世大名家康くん」である。行政を上げて「ゆるキャラグランプリ」のグランプリを獲得したのに、知名度は低いわ浜松市のキャラだという認知は薄いわで散々である、というように個人的には見える(というか「ゆるキャラグランプリ自体が行政が深く関わっているイベントなんだよなぁ……)。

 ただ、「出世大名家康くん」は、少なくても「せんとくん」よりもだいぶ愛くるしいキャラクターである。それどころか、世に埋もれた9割のゆるキャラのほとんどが、恐らく「せんとくん」よりかわいいだろう。

 それなのに、「せんとくん」より人気はない。圧倒的に。

 「せんとくん」が発表された当初、世の中からは大バッシングを受けた。製作者への誹謗中傷も珍しくなく、それを受けての製作者の反論がまた火に油を注いでいた。誰が何を言おうと、せんとくんは気持ち悪かったのである。

 が。

 なぜか日の国日本では、「キモカワイイ」という謎の言葉が誕生した。「気持ち悪く」て「かわいい」という全く相反する要素を併せ持つ概念が誕生したのである。

 「言葉」とは物の名前の百科事典ではない――というのは、有名な話である。これはものすごく簡単にいえば、言葉が人間の概念を形作る、という意味である。例えば、日本人は「犬」と「狸」を全く別の動物と認識する。何をいまさら、と思うかもしれないが、フランス語では「犬」も「狸」も同じ「シャン」という単語で表す。これはつまり、フランス人(あるいはフランス語が母語の人)は「犬」も「狸」も同じものとして認知しているということを意味するのである(フランスには狸はいないらしいが……)。そんなバカなと日本人としては思うかもしれないが、これは我々日本人も、「マルチーズ」と「ドーベルマン」は全く姿かたちが違うのに同じ「犬」として認識するのと同じことで、フランス人にとっては「マルチーズ」も「ドーベルマン」も「狸」も同じ「犬」なのである。あるいは、「タラバガニ」は本来カニではなく「ヤドカリ類」なのに、「カニ」と名付けているがために、我々日本人はタラバガニの鍋を「カニ料理」と認識して全く不満がないことに通じる。ちなみにカニとヤドカリ類とでは、人間と犬くらい違う。

 よって、日本語と外国語とでは、単純な一対一対応はできないというのが「物の名前の百科事典ではない」という意味である。言葉には、その言語が形作る「概念」も宿っているのである。

 何が言いたいかというと、「キモカワイイ」という言葉が生まれ、世の中に定着した時点で、その新しい概念も定着した――ということである。「気持ち悪い」と「かわいい」は相反する言葉であり概念であって、よく考えると全く意味がわからないのであるが、言葉として定着した時点で、理屈を通り越して(例えば「犬」と「狸」とではそもそも科が違うじゃん、みたいな)、その「概念」も生まれ、定着したのである。

 「キモカワイイ」は「キモカワイイ」なのである。「気持ち悪い」とも「かわいい」とも全くの別物なのである。「キモカワイイ」という概念であり、価値観なのである。

 新しい概念を生んだゆるキャラ――それが「せんとくん」なのである。キモカワイイ「せんとくん」なのである。

 ゆるキャラをヒットさせるには、単純に「かわいい」だけではもはやダメなのである。そこには、何らかのエポックメイキングが必要である。

 「せんとくん」の製作者は、いろいろ言われはしたが、その点では大勝利をしたということになる。もちろん、これを採用した奈良県の勝利でもある。「キモカワイイ」という新しい概念の定着に一役買ったという点が、ゆるキャラの世界に起こしたエポックメイキングなのであった。

 ちなみに、この文章はテレビを観ながら非常にテキトーに書いている。




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