魚はどこだ?
【エプソン品川アクアスタジアム】とは、現在では「マクセル アクアパーク品川」という名前で運営されている、品川駅前にある水族館のことである。かつては記念メダルが販売されていたが、施設リニューアルとともに販売終了となった(記念メダルあるある)。
私の中ではエプソン→プリンター、マクセル→CD-Rというイメージが確立しているので、ここ【アクアパーク品川】のイメージは黄金色に輝く円盤である(maxellは昔金色のCD-Rを販売していた)。山崎まさよしが服着たままシャワー浴びてる女の子にセクハラ気味に手を伸ばす謎CMが脳裏に焼きついている。
品川駅から外に出るのは、考えてみれば私の人生史上、初めてのことであった。新幹線から降りてJR在来線に乗り換えるための駅でしかなかったので、駅からテクテク歩いてどこかに行くのは初めてのことであった。アラフォーにして完全お上りさんである。
「アクアパーク品川」は品川駅のまん前にあるのがウリの水族館であると聞いていたので軽い気持ちで駅の外に出てみれば、そこにあるのは高層ビルの群であり、田舎者の私が想像する水族館の姿は視界の中に捉えることができなかった。そこからは完全にGoogleマップを片手に常にキョロキョロと周りを見渡す挙動不審者=田舎もんの醜態を魔都・東京で晒しつづけることになったのだが、東京砂漠と揶揄されるこの街ではそんな私を気に留めるような人間もまた一人もいないのであった。
最近話題になったこととしては、【しながわ水族館】(正確には品川区)がまとめた「リニューアルの方向性」というレポートにおいて、ここ「アクアパーク品川」と勘違いされててどうしようもねぇ……と嘆いていたことがあげられる。
まあ「アクアパーク品川」としては完全に流れ弾なのだが、【しながわ水族館】の存亡に直接影響を与える存在であることが数字として証明され、奇しくもそれが【しながわ水族館】側の調査・分析で明らかになっているところに、なんともいえない悲哀がある。
【しながわ水族館】の方が圧倒的に歴史が古く(【しながわ水族館】は91年設立、「アクアパーク品川」は2005年設立)、「しながわ」を名乗っているのももちろん先であり、「アクアパーク品川」ができるまでは”都内で唯一イルカショーが見られる水族館”というキャッチフレーズをほしいままにしていたのに、後出しでその全てを事実上奪われるような形となったのだから、いたたまれない。確かに品川にある水族館といえば品川駅前にある水族館だし、都内でイルカショーが見られるといえば「あの夜10時までやってて、イルカショーのところかスタジアムみたいに観客席がぐるっと丸くなってるところね!」となるのは必然といえるだろう。【しながわ水族館】はもはや事実上「大森水族館」になってしまっているといっても過言ではない(最寄駅が大森駅だから。しかも大森駅からもちょっと歩くというね……)。
当事者なのに何も言いようのない立ち位置に不本意ながら立たされた「maxellアクアパーク品川」である。
そのメダルを入手できたので、念願の訪問とあいなったわけである。実は以前から一度足を運んでみたかった場所の一つであった。
先に結論から述べてしまえば、
デートスポットであることに全フリした施設
であるといえる。もうね、ターゲットは完全に東京のイケイケアゲアゲサラリーマン(何このダサいネーミング?)が、キラキラ女子を平日夜に連れてくることを狙った施設である。水族館であることはついでで、カップルを良い雰囲気にしてあげることに全力投球した施設であるといえる。
上記の「しながわ水族館レポート」のツイートが流れた時、そのリプライや引用リツイートで反論するように「しながわ水族館サイコーだよ!」とフォローしていた方の多くは、大体が子供を連れた上での利用を想定した話をしていた。確かに子連れの親目線でいえば、【しながわ水族館】は展示の解説が工夫してあったり、歩き回るのにちょうど良い規模であったり、周囲が公園でついでに遊べたり、子供料金は激安であったりと、良いことづくめであろう。かたやここ「アクアパーク品川」は、家族連れなんか全然お呼びでないのである(いたけど)。大都会の真ん中にあって、狙っているのはそれなりに金を持っている大人のカップルである。「子供が喜ぶ演出なんてクソ喰らえ!」「カップルがピッタリと寄り添いやすい空気を作るのがオレたちの役目だ!」と言わんばかりの施設であり(言い過ぎ説)、その証拠に、水族館において入場してしばらく海洋生物がまったく出てこないという初めての経験をした。
その潔さに、私は拍手喝采であった。何事も振り切った先には賞賛しかない。
お金をもったサラリーマンカップルがお食事の後に一杯ひっかけたほろ酔い状態でここに来れば、こういった物に迷わずお金を落としていく姿が容易に想像できた。普段なら絶対利用しないアトラクションも、酔ったラブラブカップルならば惜しげもなくお金を落としていく——それがこの世界を作りし神が定めた定理である。サラリーマン・OL狙いの規模感が【川崎水族館】なんかでは到底太刀打ちできない。
バイキング船やらメリーゴーランドやら、とても室内施設とは思えない数々のアトラクションに私のライフポイントはもうとっくにゼロであった。入館してまだ1匹も生きた魚を見ていないのに。
しかし、もちろんここからがこの施設の本領である。いままでの設備は入館料2200円を支払わせた後にさらに追加で小銭をむしり取るための設備であって、この時点で多くの客が忘れてしまっているかもしれないが、実はこの施設は水族館なのだ(知ってる)。
メリーゴーランドという試練を超えた先に、ようやく水族館を水族館たらしめる”海洋生物”という要素がお目見えすることになる。が——
生き物見せる気あんまりねー!
と言わんばかりのプロジェクションマッピングの嵐であった。生き物は壁の方にちょこんちょこんと展示されていただけだった。しかもこのプロジェクションマッピングは結構遊べる仕様になっており、雪の結晶を踏むと砕け散る等、芸が細かかった。雪の結晶エリアを彩るために、インテリアの一部として海洋生物が端の方に置かれていた。
煽るようなことばかり言っているが、私は度肝を抜かれてマジで楽しかったので、ここまでで私の中の評価は爆上がりである。下調べ段階ではリニューアル前の評価で”ぼったくり”的な意見がちらほら見られたのだが、リニューアル後は概ね好評な意見が多いことにも納得。ここは、”海洋生物について学ぶ場”というよりは、エンターテイメントに振り切っているのである。そしてこれからはきっと、こういう水族館がメジャーになっていくのだろうなという肌感がある。現に、プロジェクションマッピングの演出等を取り入れている水族館は数多くある。それはひとえに、エンターテイメント的な要素を色濃くする方が”ウケが良いから”であろう。
これからの水族館は、かの有名な「竹島水族館」のように展示パネルを熟読してもらうように客に”能動的な動き”を求めるタイプでいくのか、あるいはここ「アクアパーク品川」のように客は何も考えずにただ”楽しませてもらう”といった受動的な形で良いとするタイプでいくのかの二極化が起こり、前者は主に小規模水族館が、後者は主に大規模水族館が舵を切る形となるのではなかろうか。
記念メダラー的には恐らく前者のタイプを好むと思われる。が、時代としてはショート動画やインスタ等のお手軽SNSの流行からみてとれるように、何も考えずに楽しめるという後者のタイプが世の中の主流となっていくのではないかと予想する。そしてまた、それらの流行はイコール”映える”こともまた重要な要素の一つとなる。
「アクアパーク品川」はまさに時代の変化に合わせたリニューアルを成し遂げた都会的な水族館の一つの正解であるといえるだろう。立地とか客層とかをよく考えて行き着いた答えが、現在の演出の形となっている。
まあ家族連れもそれなりにいたし、子供も楽しんでいる様子だったけどね!
海の生き物は楽しいな!
演出がどうのこうのと知ったかぶりで能書きを垂れてきたが、ある程度進むときちんと海洋生物が展示されている。ただ基本的にはどこに行っても薄暗いので、私のしょぼいiPhoneのカメラでは軒並みうまく撮影できなかった。きちんと撮れたものだけをただただ羅列していくだけの垂れ流しスタイル。
アクアスタジアムとか設備とか【しながわ水族館】との関係性とか
現在の名前こそ「アクアパーク」だが、旧名の「アクアスタジアム」の名の由来はこのイルカショーゾーンにある。ぐるっと取り囲むように配された観覧席はまさにスタジアムの名を冠するに相応しい造りとなっており——むしろサッカースタジアム等よりも、どこから観ても平等という点で、平和を愛する日本という国にふさわしい造りといえよう。記念メダラーとして全国津々浦々の水族館を巡ってきた中でもかなり特異なイルカショーブースである。これを見て「ああ、【しながわ水族館】は勝てんわ……」と思ったのだが、そもそも戦っている土俵がまったく違うとも考える。十両優勝を目指している力士と幕内で優勝を目指している大関くらいの違いがある。規模感が全然違う。
【しながわ水族館】のリニューアルの方向性は、前述のように実は品川区が公式リリースが出している。その中の先ほど出てきた「リニューアルの方向性」は個人的には完全にスベっているように感じる(リンク先から自分で読んでみてね〜)。一言でいえば、区立水族館として「公益性」を全面に押し出していくような方向性と読み取れ、その一環としてイルカの展示&ショーは「他のエンタメ性溢れる民間水族館におまかせしてうちは廃止」みたいな話なのだが、その方向性でいくと、現在抱える最大の問題を解決するには難しいのではないかと思ってしまうのである。その最大の問題とは「利用者数の低下」である。
例えば、リニューアル後に目指す姿として、公立水族館として「SDGs推進に貢献する」という役割を標榜している。一方で、エンタメ性が溢れ過ぎていて学習的な要素はほぼ根こそぎカットしているここ【アクアパーク品川】からはSDGs的なものは確かに微塵も感じない。が、そもそも水族館がSDGsで掲げる項目に貢献できる部分ってなんだろうとも思うわけである。レポート内にある「SDGsで水族館が関与できること」という項目の表もだいぶこじつけっぽくて、「えーっ( ゚д゚)」ってなってしまったのが正直なところである。例えば、水族館が[ジェンダー平等の基礎学習の場となれる]って分析をしているのだが、自然界こそジェンダー平等じゃないんじゃない?って思っちゃうのだが、違うんかね? 自然界の方こそ、性それぞれの重要さに差がありすぎるんじゃないかと思うのだが。海洋生物的な話でいえば、チョウチンアンコウなんか男女の格差あり過ぎじゃね? ってつっこんでしまうのである。
またSDGsの[平和で包摂的な社会を推進]という項目では、水族館が貢献できることとして「野生生物たちの平和で豊かな暮らしぶりを学ぶことで平和教育へのキッカケになる」と謳っているのだが、野生こそ生きるか死ぬかのサバイバルじゃね? と普通は考える思うのだが。平和とは対極をなす環境を野生と呼ぶのではなかろうか。
そして、レポートの最後に[しながわ水族館に求められること]という結論的なものがあり、地域の人と学識経験者とで議論を交わして導き出した答えの一つが「SDGs推進への貢献」ということらしい。これ自体に反対はないのだが(というか企業でも公益団体でも現代日本でCSRを検討すれば100%出てくる答えだと思う。今や避けられない話だから)、学識経験者を交えて進められた議論だとは到底思えないような話ばかりが載っていて( ゚д゚)となってしまった。
さらに言えば、このレポートは「経営課題」とか「集客」とかいった論点を避けまくった結論になっているように感じるのである。せっかくレポート冒頭の「課題分析」では、ちゃんと「社会的ニーズから遅れた」等と何がダメだったのかの分析ができているのに、学識経験者たちと導き出した[水族館の新しい価値]という結論が超漠然かつ上っ面な言葉が並んでいて、何とも言えないアンニュイな気分にさせられるものなのである。[水族館の新しい価値]という項目に掲げられた5項目が全然新しくないのよ。これらのことって、設立当初もたぶん同じようなこと言ってなかった? 知らんけど。
集客できないから、今苦境に立たされてるんじゃないの?
水族館需要を「アクアパーク品川」に目に見えて持ってかれてるから、今苦しいんじゃないの?
同じことをしたって大爆死だろうけれど、見習うべきポイントはたくさんあるんじゃないの? メリーゴーランド設置しろとは微塵も思わないけどさ。
——などといろいろと考えてしまった。
逆に言えば、ここ「アクアパーク品川」は本当によくできた水族館だと感じた次第である。水族館マニアからはたぶんそんなに評判はよくないだろうという予想はあるのだが、品川の地で水族館を求める客の大半はマニアではなく水族館にエンタメ要素を求める素人の大人たちであろう。海洋生物の生態を学ぶことではなく、「楽しかったか、否か」のみを求めている。それを求めて平日夜19時からでも水族館に行き、その後の夜に繋げるのである(意味深)。
家族で来て子供が楽しめる【しながわ水族館】が、それだけでは成り立たなくなったという苦境に立たされたからこそのレポート分析でありリニューアルであるという点を鑑みて、もっと俗世的な視点でも考えた方が良いと個人的には感じる。
「アクアパーク品川」が展開するエンタメ要素満載の水族館の姿を見て、奇しくも【しながわ水族館】のことばかりを考えてしまった。両者の一番の違いを象徴するかのような存在が、この「アクアスタジアム」なのではないだろうか。
記念メダルについて
かつての記念メダル販売場所に訪れれば、自然と「デッドストック品はないかな⁉︎」と期待し探してしまうのが記念メダラーのSA・GA。しかし施設名まで変わってしまっていれば当然そんなものはあろうはずもなかった……
あわせて、まだ公式が発表していない記念メダルはないかなーと探してみたが、もちろんない。私の”未発見メダルを探す旅”はまだ終わりそうにないのだった。
記念メダルのデザイン的な面に言及すると、やはりこの施設はイルカショーをはじめとしたアクアスタジアムでのショーがウリなんだなぁと思わせる。デザインである。現在では他界してしまったそうだが、全然ショーの芸ができない運動音痴のラッキーくんというイルカが名物だったそうで、記念メダルの図柄にもなっている。
ナイト営業のイルカショーは大変評判が良いみたいなので、そのあたりのことをイメージしたド派手なプリントメダルを携えて、今こそ記念メダルの復活をして欲しいところ。
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