手塚治虫を知らない大人がいるなんて……
【KYOTO手塚治虫ワールド】とは、2011年まで京都駅内に存在した手塚治虫に関するミュージアムである。2011年はすでに記念メダル収集を始めていたものの、どのように収集していくのか、どこまで集めるのかがいまいち手探り状態の時期であったため、人生に迷っているうちに訪問する機会を逸してしまった後悔の残る施設の一つである。記念メダラーたる者、そういう施設の一つや二つ、あるよね?(唐突な同調強制)
施設内はパネルシアターやミニシアター、手塚治虫作品が読めるコーナーなどがあったようで、記念メダル販売機は等身大鉄腕アトムとリボンの騎士のすぐ近くに設置されていたことが他の人の思い出写真からわかった。ただどの人のウェブサイトを見ても同じような被写体しか撮影されていなかったので、正直あまり見所の多い施設ではなかったんじゃないか〜ということを個人的には予想する。京都駅はいまや巨大ステーションなので、かなりテナント料も高いと思われる。こういった企画系の施設は、ガバッと儲けて損をしない内に撤退という方式ならいけるかもしれないが、常設するには金額面も含めてコンセプト的に厳しい気がする。入場料無料だったので、何か特別な契約方法だったのかもしれないが。
で、見出しの通りの話である。最近職場で20代の女性と仕事をしていて、この人が記念メダル収集に関して「何に使うんですか?」とコレクターに対して決して言ってはいけないNGワードを連発してくるというとても厳しい態度で接してきて、おっさんは怯んでしまうのである(でも仕事で【スカイツリー】に行った時はメダルを買いに行きたいのに怖くて言い出せなかった私に「行ってきてください」と促してくれた。ツンデレ⁉︎)。この人に、このメダルを入手したこともあり試しに「手塚治虫って知ってる?」と質問したところ、「わかります! 名前は聞いたことあります!」と元気ハツラツに答えてくれた。「名前は聞いたことがある」=「知らない」に等しい。なんということだと、私がアメリカ人なら「ジーザス……」と言っていたところを、日本人なので「なんということだ」と言ってしまった(無駄に長い説明)。あの少年漫画の王様・手塚治虫も過去の存在になりつつあるのかと、時の流れを感じずにはいられなかった。
ただ誤解なきように言っておくが、私だって手塚治虫世代では決してない。手塚治虫作品は有名どころはそれなりに読んだが、それもやはり「過去の人の作品を読む」というスタンスであった。私が言いたいのは、「過去の人の作品」というカテゴリーの中でさえ、あの手塚治虫が消えつつあるのか⁉︎ という衝撃なのである(個人周辺の話だが)。
回る〜ま〜わる〜よ、時代は回る〜、である(何が?)
ブラックジャックによろしくしない
私の中で手塚治虫作品といえば、記念メダルの図柄にもなっている『ブラックジャック』である。私よりもう少し上の世代の人だと『火の鳥』だという人が増える印象があるのだが、私世代だと『ブラックジャック』の方が話が通じることが多い。元々の出会いは小学校の図書館に『はだしのゲン』と並んで「数少ないマンガ」として愛蔵版がラインナップされていて、『はだしのゲン』と『ブラックジャック』じゃ、そりゃ『ブラックジャック』だよねということで大人気であったのである。大人気ゆえになかなか全巻読むのが難しかったので、ある日ふと、昼寝から目覚めると天啓のように思い立ち、お正月にもらったお年玉を握りしめて湘南台駅の有隣堂へ全巻を購入しに行ったのである。通常版コミックスで購入したのだが、たしか全巻で9千円弱であったように思う。当時はスーパーファミコン全盛の時代でソフトが一本1万円近くするという物価の中で生きていたので、「意外と買えるものだな」と思ったことを覚えている。
現在読むとなかなか政治的にも倫理的にも微妙なセリフや内容が見られるのは時代的に致し方ないことであるが、当時であってもそれは同様であったらしく、コミックの巻末に「今では倫理的にあかん表現があるけど、当時の時代背景や作品の主題を尊重して改変せずに収録している。わかってね!」みたいな注意書きが全巻に載せられていた。確かに人種差別的な発言を繰り返す白人や、そもそも「火傷を負った幼少期のブラックジャック(本名:間黒男)の顔に黒人の子供の皮膚を移植したために気持ち悪るがられる」という設定自体がなかなか際どいところをいっている。しかしこれは同時に、当時の手塚治虫の鋭敏な問題意識の表れと取ることもでき、社会にはびこる病理にメスを入れようという強い意志だったと考えるのが自然である(医者の話だけに)。
ただそんな注意書きがある中でも、「やっぱり収録できなかった!」という話が実はある。記念メダルよりもよほどコアなマニアックジャンルに「未収録マンガ・絶版マンガ」というものがあり、その代表格に『ブラックジャック』の3作品がよく挙げられる。その3作品とは『快楽の座』『植物人間』『指』である。その中でも『快楽の座』は特に有名で、他の2作品が何らかの形で単行本に収録されているのに対し(ある版までは収録されていた&改訂されて収録された)、『快楽の座』だけは当時掲載された少年チャンピオン1975年4号のみの収録となっており、読みたければこの雑誌をどうにかして手にしなければならないというレア度なのである。そのため、該当の少年チャンピオンは信じられない価格で取引されている。ちなみに一般人が原書で読む最も簡単な方法は「国会図書館」での閲覧である。国会図書館に収蔵されている少年チャンピオンの中でこの1975年4号だけ異様にボロボロだというのはマニアの間では有名な話である。内容としてはいわゆる「脳改造手術」的な話で、未収録なのもわからなくもないものである。
ちなみにブラックジャックの『快楽の座』に並んで単行本未収録の幻の作品として有名なのがちびまる子ちゃんの『まる子、夢について考える』である。これは未収録となった単行本に代わりにさくらももこの直筆メッセージが収録され、曰く、「当時忙しすぎて納得いかん話になったから、載せたくなかった」とのことであった。話もタイトル通り謎要素が満載の「ああ、疲れてたんだなぁ……」ということをしみじみと感じさせるものとなっていて、載せたくなかった気持ちがわからなくもないものである。
↓作者コメントが収録されている巻。ちなみにアマゾンレビューでは「この巻から急につまらなくなった」という評価が目白押しである。やっぱり忙しかったのかね〜
ちなみに今の時代では、この辺のものはネットで検索すれば一発でヒットして、有志がアップしたものをあらかた読めるようになっている。それが良いのか悪いのかは別として。
記念メダルについて
裏面が一般的なデザインとは異なる趣向を凝らしたものとなっているのが個人的には評価が高い。「手塚治虫ワールド」のワールドに掛けたデザインとなっている。私も次にまたオリジナルメダルを製作する機会があれば、「茶平っぽく、かつ、凝った裏面デザイン」というのに挑戦したいと考えている。そのために裏面研究を密かにしていて、そのうち【一味違った裏面特集】という企画の記事を書こうと構想している。予定は未定。
おもて面はピノコがブラックジャックにチューをしているという内容を知らなければ主人公のロリコン疑惑が噴出しそうな図柄となっている。前述の職場の同僚である女性が見たら、内容にあらぬ誤解を抱きそうである。いや、我々世代が見たら別に全く何の疑問も抱かない構図なのだが、時代的にはこういった描写に厳しい時代であるし、なにより手塚治虫作品を全く知らない世代が大人になりつつある時代なので、こういったデザインも許されなくなっていくのではないかと危惧している。
ところで、ピノコは姉のお腹の中にいた時は超能力が使えた上に大人な喋り方であったのに、ブラックジャックによって少女の肉体を手に入れた途端、喋り方も思考も子供っぽくなり、超能力は使えなくなってしまった。その点が私の長年の疑問なのだが、この答えを知っている人、どなたかおりますかね?
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