恋人の聖地で恋人たちの愛の写真を撮るパンダを持ったおっさん(長い)
【恋人岬】とは静岡県の伊豆半島の西側・土肥にある恋人の聖地である。恋人の聖地にパンダと行った。悲しかった。そう、悲しかった。パンダのぬいぐるみを持ったアラフォーのおっさんが恋人の聖地で走ってゼーゼー言っていたら警察に通報されても文句は言えないだろう(もちろん言うけど)。
この地の歴史的な背景をよく知らないゆえに「なぜここが恋人岬と呼ばれるのか?」「なぜここに恋人が集うのか?」といったことが全然わからないまま、私は岬を駆け抜けた(たぶん夕日が綺麗だからだと思うけど肝心のその夕日を未確認。夕方に行ったのに)。「閉館時間の前に次の【土肥金山】に早く行かなきゃ……」という焦燥感のみに支配された私は、強風の中、日が沈みゆく岬の先を、ただただ猛ダッシュで駆け回った。岬へはちょっとした山道を抜けねば辿りつけないようになっており、その道中、幾組ものカップルを抜き去った。パンダを抱えた中年男が後ろから迫り来る様に、カップルたちはさぞ恐れ慄いたことであろう。夕日を見に集いしカップルたちを見守るその当の夕日本人も、私を見て「沈む前に帰るのかよ∑(゚Д゚)⁉︎」と驚愕したに違いない。
何が言いたいかというと、私はこの地で確実に怪しい人間だったということである。
山道を猛ダッシュで駆け抜ける私。そして、人は得てして、焦っていると遠回りをする生き物である。
「急がば回れ」という言葉を最初に生み出した人はソクラテス級に讃えられて良いと思う。
オワタ。
沈みゆく太陽は、私に対する鎮魂歌(レクイエム)だったのだ……
そう絶望したとき、吹き荒ぶ風に乗って、聞こえて来る音があった。
カランコロン、カランコロン、カランコロン——
鐘を3回鳴らす音。
そして何より、道中すれ違ったはずのカップルたちが、ひと組たりとてこの場にやって来ない——なぜだ? この音は何だ?
文字通りの風の便りを頼りに、耳を澄ませて必死にその音を追うと……
果たして、そこに鐘はあった。
どれくらい引き返したかというと、恐らく私が走った距離は3分の2くらいで良かったなというくらいの場所に、その鐘はそびえ立っていたのだった。富士山と共に——
こうして彼の地に辿り着いた私は、ちょうど「愛の鐘」を3回鳴らそうとしている先客のカップルがいることを見て取り、身を潜めるように木々の間に身を隠した。パンダを手に持つおっさんがゼーハー言っていたらカップル達の愛を邪魔しかねないと思ったからである。
しかし後から考えるとこの行動は完全に裏目で出ていた。木に身を隠すようにしてこちらを見ているパンダを手にしたおっさんがゼーゼー言っていたら、それは犯罪である。
しかし——そんな私に奇跡が起きた。
写真撮影を頼まれたのである。
愛の前に、人を疑う心など春の夜の夢の如しなのかもしれない。とてもキラキラした目で、二人は私にスマホを差し出したのであった。鐘の前に立つ二人を、私は「富士山が中心に来るようにした1枚」「二人を中心にした一枚」「二人を縦撮りした一枚」と完璧なる構成の3種類を撮ってあげて、沈みゆく夕日よりも美しく輝く笑顔の二人にスマホを返却した。
その後、一人でパシャパシャと撮ったのが、この記事に散りばめられたパンダと鐘の写真の数々である。皆々様におかれては、強風でパンダを飛ばされながら必死になって写真撮影をする一人の中年親父の姿をぜひ脳裏に思い浮かべていただきたい。
記念メダルについて
【恋人岬】の駐車場には、いかにも「昔、記念メダルの販売機置いてましたよ〜」と言わんばかりのお土産屋さんがある。
「ここはお宝の匂いがするぜ〜!」ということで、舐め回すように店内を見て回ったが、もちろんデッドストック品などなかった。無いのが当然であるが、無いと悲しいのが失われた記念メダルを求める旅路。
どこを探してももちろんなかったので、私の「幻のデッドストック品を探す旅」は空振りに終わった。しかし、雰囲気的にはこれぞ「ザ・記念メダル施設」という趣をこれでもかと醸し出していたので、いつの日にか復活があるかもしれない。恋人の聖地で茶平メダルって、日付やらメッセージやらで何かと相性が良いと思うので。
デザインとしては、この地のメインオブジェクトである「愛の鐘」をそのままデザインしたおもて面が記念メダラー好みの観光地感を演出している。「愛の鐘」が絵になるものなので、忠実に再現したことがメダルデザインとしても功を奏している。恋人たちのウケもよかったんじゃないのかな〜と想像するのだが、販売終了した事実を鑑みると、恋人たちは記念メダルを買ってはいけないという独自の政令が伊豆にはあるのかもしれない(ない)。
裏面はライトでポップなイラストを中心とした構成である。
日付とメッセージが刻印できる特性を生かして、ここはもっともっと恋人需要を満たすような裏面デザインでも良かったかもしれない。
コメントを残す