2007年のプロ野球は、裏金問題で揺れた年である。絶対に他の球団もやってただろうが西部ライオンズの裏金問題が話題となった。社会人選手と大学生選手の二人に合わせて1300万円程度の現金を渡していたといい、それを契機に他にも5名のアマチュア選手に裏金を渡していたことや、高校を含むアマチュアチームの監督170人にも選手入団の謝礼として現金が渡されていたことが発覚。
この事件によって、「逆指名制度(希望入団枠制度)」が廃止となった。2004年に「一場事件」という同じく逆指名制度による裏金問題が表面化した事件があったが、その教訓は生かされず、最後に打ち上げる花火のように盛大な大問題となって、この制度は幕を閉じた。
「教訓は生かされず」と書いたが、どの球団も大なり小なりやっていただろうから、制度が存続する限り生かされるわけがないともいえる。せいぜい「もっとわかりにくいようにがんばろう」というくらいである。裏金ではなく「最高標準額の超過」と言い張って突っぱね続けたのがそれである(詳しくはググればいくらでも出てくるで~)。
西部の裏金問題により、最初に発覚した二人の選手は野球生命がほぼ終わった。早稲田大学の投手は退部となり、東京ガスの選手に至っては自身が謹慎処分になるだけでなく、東京ガス自体も対外試合禁止となった。
プロ野球浄化のための人身御供となったともいえる。平たく言えば「運が悪かった」わけである。プロとして大活躍した選手だって(むしろそうした選手こそ)、裏金を受け取って入団した可能性はあるわけで。それが問題視されるような時代に生きたか否か、問題となった二人以外にも、そして他球団でも同じ年に同じ経緯を経た人間がいるはずなのに、やり玉に挙げられたかどうかが明暗を分けた。
「一場事件」では一場投手は新設球団の楽天に救済されたが、そうした運も二人にはなかった。
「君の力が欲しい」と自分の実力を請われ、更にはそれを金銭という目に見える形で「評価」されたとき、果たしてそれに抗うことができる人間などいるのだろうか。それも、自分がずっと夢見て来た舞台、かつ、完全実力主義の世界からの誘いなのである。まあ高校野球の監督がもらっていたというのはどうかと思うが。
そんな裏金問題に揺れに揺れた年、中日ドラゴンズは日本一に輝いた。セ・リーグ優勝は巨人で、中日は2位からクライマックスシリーズを無敵の強さで勝ち上がり、日本シリーズへ出場。対戦相手は日本ハムで、4勝1敗でシリーズを制して日本一に輝いた。
この頃は、落合監督の黄金期であるといえる。落合監督の独特の戦術ややり方がたびたび批判の的となったが、その全てを結果で黙らせていた(「一人一殺」とか8回までパーフェクトピッチングの投手にリリーフを送るとか。いわゆる「非情采配」)。私はプロ野球に興味がない上に落合博満が人間的に好きではないのでそもそも批判もそれを黙らせる結果もあんまり興味がないのだが、ただ単純に文句を言われても動じないというのはすげーなと思う次第である。落合博満、すげーな、と。息子の幼少期のわがままぶりをどんなに批判されても動じなかったのはここに繋がるのか、と(関係ない)。「非情采配」と揶揄されても非情に采配を振るい続ける肝っ玉が私にはない。話が逸れるようだが、国会答弁を見ていてもつくづく思うのだが、あれだけグチグチ言われても全然動じないというのは、仕事をしていくうえで非常に強力な能力であると考える。私のように人の顔色を伺いながら生きている人間にとってはああはなりたくないけどああなりたいとアンビバレントな憧れの対象となる方々である。
そんな落合監督だからこそできたであろう、この年のもう一つの目玉となった話題は「中村紀洋の育成枠での中日入団」である。契約更改でいろいろとつっぱってオリックスを退団したものの所属チームが決まらないまま過ごしていた中村紀洋を、「育成枠」というウルトラQで拾い上げたのが落合監督である。この出来事のおかげで、「育成枠」という制度が広く認知されたと言っても過言ではない。結果的にというか結果を見ればこれは大変お買い得な買い物となり、この年の中村紀洋は恩義を返そうとしたのか大活躍をして、日本シリーズMVPにまで輝く。オリックスにとっては結果的に自分が提示した金額よりも比べるのもバカらしくなるくらい遥かに低い金額で獲得した球団でこんなにも活躍されては面白くなかったことだろう。あのゴネゴネの契約更改はなんだったんだと。
ちなみに落合監督も「他にサードがいるから」という理由で中村入団の打診を4回断っていたことをテレビで発言している。しかし最終的に独特な男気を発揮したのが功を奏したし、落合監督自身の評価を上げることにも繋がった。
この頃の落合監督は全てが好転に繋がる神風が吹いていたのかもしれない。GMになったら全てが悪評に繋がる地獄の風が吹いちゃったけど。
人生とは浮き沈みであることよ。まあ、落合博満の沈みの時期は、私の人生の最高潮よりも遥か高みにあるだろうが。稼いだ金が宇宙レベルで違い過ぎる。
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