名古屋でSLが走った日
この記念メダルに関しては詳細不明である。譲っていただいた方に訊いてみても、詳細は把握していらっしゃらない様子であった。
2018年現在、名古屋にSLは走っていない。しかし、名古屋市が抱える万年赤字第3セクター鉄道「あおなみ線」を、JR西日本から貸与されたC56が2013年の2月に「試験走行」したことがある。この試験走行には抽選で選ばれた一般客が乗車可能だったのだが、倍率は100倍だったそうである。そりゃそれくらいにはなるだろうと、鉄道に全く興味がない私でも思う。応募しようとは思わないが、乗せてくれるというならば乗るくらいにはこんな私でも興味が湧く。
この記念メダルが果たしてそのイベント時に販売されたものなのかどうかは不明である(ささしまライブ駅において鉄道会社のグッズ販売が行われたそうだが)。しかし、他に思い当たるイベント、発売契機が思い当たらないため、以下このイベントについての記事とする。この記念メダルに関して詳しく知る方がいたら、ぜひご一報を。
この「あおなみ線にSLを」というイベントは、名古屋市の河村市長の発案によるものである。「あおなみ線にSLが走ったら、観光客が世界中からくるだぎゃー」とあおなみ線におけるSLの定期運行を思い付きのように発案し、それを試験走行とはいえ実際に運航させるところまでもっていったのだから、その実行力は認めざるを得ない。メディアからは何かと嫌われがちな河村市長だが、長期政権を維持するだけの実力は伊達ではない。職場のお年寄りたちも、これくらい精力的に仕事に従事していただきたいものである。河村市長はこの当時でもすでに余裕で還暦越えだぜ。
しかし、この試験走行という「イベント」は大盛況のうち終わったが、それが河村市長が発案した「定期運行」にまで結び付きそうかというと、これがまったくなのである。その原因は、協力者が皆無な点にある。
現役で運行されているSLと聞いて真っ先に思い浮かぶのが、記念メダルでもおなじみの静岡県の【大井川鐡道】である。名古屋市はここからSLを借り入れて運行しようとしたらしいが、【大井川鐡道】は正式に拒否した。というか、「貸して」と言われる前からさっさと「やだ」と断った形である。2015年に名古屋市が【大井川鐡道】に「SLにATS(自動列車停止装置)が設置できるか」の技術的調査を依頼したら、その調査すら拒否られている。調査協力すれば、当然貸与への流れができてしまうので、その前に門前払いしておいたという形であると思われる。
単純に考えれば、【大井川鐡道】が名古屋市への協力を拒否したのは当然すぎるほど当然であるといえる。たとえるなら、「あなたのラーメン屋の隣に私もラーメン屋を作るから、あなたの秘伝のスープのレシピを教えて」とお願いしているようなものである。名古屋市にSLが走ることになれば、名古屋はもとより愛知県・岐阜県・三重県ひいては新幹線で名古屋駅にやってこられるSL目当ての観光客は、静岡県の山奥に存在する【大井川鐡道】にわざわざ行くよりも、名古屋駅のあおなみ線で乗車することを選ぶことだろう。そんなことは容易に想像できる中で、「貸して」と平気でいえるのは、なかなか面の皮が厚いことだといえる。
また、仮に「定期運行」ではなく、年に数回のイベント的な運行における貸与であっても、【大井川鐡道】からしてみれば面白くないはずである。単純な話、「うちに乗りに来てよ」と思うのが素直な気持ちであろうし、そもそも【大井川鐡道】はローカル線のご多分に漏れず、運営が楽ではない路線である。その最大の目玉=収益であるSLを隣の家のライバルに貸与するなどというのは、国宝級の善人でなければ首を縦には振らないのは当然であるといえる。もちろんビジネスの話なので名古屋市からは当然借入料が支払われる話であったと思うが、行政組織である限りここで大盤振る舞いの予算を組むとは到底思えない。この借入料は、輸送や車両整備等の必要経費の全額負担は当然としても、その他に「人材料」「技術料」が含まれてしかるべきである。SLを「ただ走らせるだけ」に焦点を当てても、必要な人材が他にどこにもいない現在、独自の人材育成に投資してきた【大井川鐡道】から技術と人材の借り入れが必要になることは明白で、その目測しにくいながらも確実に大きな費用と時間をかけてきた「財産」に対して、賭けてもよいが行政は絶対に低く見積もるはずである。さらには、前述のように実現すればまさに敵に塩を送るような形となる【大井川鐡道】側に「十分な利益」が確保できるくらいの利益を計上しなければならないが、初手は必ず「必要最低限以下」を提示してくる行政組織がそこまで汲んで話をもってくるとは到底思えないので、どだい無理な話なのである。まあ1日1億くらいの借入料を支払うなら可能かもしれないけど~。
この問題に対して、貸与も技術提供も拒否した【大井川鐡道】に対する批判的な声が少なからずある。確かに「社会貢献」という観点に立てば非常にケチな話のように思えるし、単純に「名古屋にSLが走って欲しい」と期待を寄せる東海地方の鉄道ファンにとっては残念な話だと思う。が、【大井川鐡道】の側に立てば、コアコンピタンス経営(独自技術をウリにした経営)の牙城を自ら崩すような話を突然もってこられて、迷惑この上ないし、非常に危機感を抱いたことだろう。名古屋市という行政組織が、一私企業が全く損を被らないほどの潤沢な借入料を提示するとは、広瀬すずが私のことを好きで好きでたまらなくなってウェディングドレスを着て私のもとへ駆けてくるということくらい1ミリも想像できないことである。
このビジネスでウィンウィンの関係はありえないのである。1日1億払うみたいな夢物語でないかぎり。【大井川鐡道】にしてみても、相手が名古屋市でなければ協力した可能性はある。相手も地理的要因も悪かったのである。
借り入れを拒否られた河村市長が考え出した次なる手段は「【名古屋市科学館】に展示されているSLを復活させる」という非常にアクロバットな手段であった。その費用見積もりはボイラー修理だけで5億近いというものであったが、河村市長は「まあそんなに掛からんと思うよ」と何を根拠に言ったのかは不明だが、修理に前向きだという。まあ確かに5億円くらいあったらボイラー修理どころかSL一台を一から作れるんじゃね? と素人感覚としては思う話である。
もし「名古屋にSLを」を実現するならば、あおなみ線運営の第3セクターの一員であるJR東海がその気になって全面的に協力しなければ不可能であろう。しかし当のJR東海は「うちはリニア鉄道館で手一杯だから手伝うなんて無理ぽ」と定例会見で発言しており、とんとつれない。あおなみ線の終着駅「金城ふ頭」は【リニア鉄道館】の最寄り駅なんだけどね~。
こういうことの常ではあるが、計画が実現するまでは主に費用面を理由に強い批判が湧き続けるだろう。が、実現の見通しがたち、実際に実現されれば、マスメディアは手に平を返したように華やかにそれを報じる。やり遂げてしまえば大方の抵抗勢力は沈静化するので、そこまでたどり着けるかどうかが実行者の手腕であるといえる。東京オリンピックも、石原慎太郎元都知事が提唱したときは、「オリンピックにはこんなに金がかかる」とこぞって報道され、大批判が巻き起こったものである。しかし今では、日本国中が楽しみで仕方ないと湧き上がっている(もちろん私も楽しみ)。実施が決まれば、お金のことには不思議と目がいかなくなるのが民衆なのである。
「名古屋にSLを」も、実現可能なところまでやりきれれば、恐らく批判は鎮まることだろう。名古屋城再建でそれどころではないかもしれないが。。。
いやー、よくこんなに同時にいろいろな仕事を進められるよね~感心しちゃう。別に河村市長好きじゃないけど。
記念メダルについて
実は図柄は、おもて面は【大井川鐵道】のディズニーメダルと、裏面は【名古屋城】のものと全く同じである。ゆえに、同一の金型を用いて安価に製作されたものと思われる。要するに、金型製作代が一切掛かっていない。
こういうやり方もあるもんなんだなぁと素直に感心である。裏面は同一で、おもて面のみバリエーションを増やすというのはどこの施設でもやっていることなので、確かに「おもて面も裏面も他の場所と同一」というのもやろうと思えば可能なわけである。金型は発注者が買い取るものなので(基本的には茶平工業に保管だが)、【大井川鐵道】と【名古屋城】のメダル発注者が同じであれば、どちらの金型も使用が可能となる。
このようなパターンが他にもあったら、そのうち【特集ページ】で取り上げようかな〜
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