無地メダルの悲哀
2023年11月の通販メダルの新作は、記念メダラー達の度肝を抜く一品であった。
加工前の無地メダル
という想像の斜め上をいく製品に、記念メダラーたちは、ファンゆえに、マニアゆえに歓喜した!
正確に言えばプレス&コーティング後のものなので、”加工前”というのは”プリント印刷前”とほぼ同義となる。真の意味で”加工前”というと金メッキを施す前ともいえ、メダル状では存在しない(亜鉛が板状の時に金メッキを施す)。その後円形(メダルの形)にくり抜く工程があって、プレス&コーティングと進んでいくわけで、”最も加工されていないメダル状の物”となると、”プレス前”ということになる。
記事冒頭掲載のメダルが販売された当初は「今月はついにイラストのネタ切れか?」あるいは「忙しすぎて新作を印刷する時間も確保できないのか?」等々の憶測も一部あったのだが、事態はもっと深刻であった。
記念メダル界隈で切っても切れない永遠のテーマ——”転売”である。
それが明かされたのが冒頭のツイートというわけだが、このツイートは他の騒動の際にそれを収束するために投稿されたものである。思わぬところから販売の経緯が判明し、いろいろと考えさせられるものとなった。
説明するまでもないことかもしれないが、もともと無地メダルは茶平工業を会社訪問&工場見学をした際にご厚意から無料でいただける物であった。それが高額転売されていたというのだから、大半の記念メダラーは憤慨したことであろう。私もさすがに、茶平工業さんの悲しい気持ちを想うととてもガッカリした。
ただ私は”転売”に関しては”買う側”で利用する立場でもあるので、批判する立場にはないしその資格もない。買うのは良いけど売るのはダメだなんて、論理的に崩壊しているわけである。売る人がいるから買えるのだから。
でもやっぱり、今回のケースのこういう物を売買するのは良くないね! というのは本音のところでは思ったりもする。茶平工業が悲しむからだ。当然、悲しいし裏切られた気持ちになったことだろう。
ただ”コレクター”という存在を紐解けば、”多くの人が持ってない物”を欲しがる存在であるともいえる。それを細分化していくと、プロトタイプ版を欲する者が一定する現れるのが理でもある。
記念メダルに限らず、例えば遊戯王カードでいえば製造工場から流出したであろう裁断前のロットが高額取引されていて、それを入手したコレクターは純粋な気持ちで非常に嬉しそうにしていた。額に入れて飾っていたくらいだ。
他には、昨今ではレトロゲームの価格高騰が世間を賑わせており、レトロゲームコレクターの増加によってとどまることを知らないところとなっているのだが、ファミコン&スーパーファミコンのサンプルロムはよく高値で取引されている。特に未発売ソフトのほぼ完成しているサンプルロムはヤフオクで100万円を超えることもある。
↓参考記事① さすがにこれは大事件だったらしい。値段も内容も。 ↓参考記事② サンプルロムが高額転売されるから、サンプルロムのラベルを偽造して製品に貼り付けて売るという詐欺まであるそうな。他にはiPhoneマニアがiPhoneのプロトタイプ版を超高額で取引している事例もある。
つまり、コレクターは沼の深度が深くなればなるほど、誰も持っていないものが欲しくなり、”加工前””未発売””試作品”といった物を欲しがる者が現れ始める。普通に考えて、メーカーにとってはめっちゃ迷惑な話である。特にファミコン・スーパーファミコンのサンプルロムなんて、誰かが何らかの約束を破って無許可で流出させた言ってみれば不正品であるのに、フリマアプリやネットオークションだけではなく、駿河屋というレトロゲームショップの実店舗では普通に買取・販売を行なっているくらいである。そしてゲームコレクター界隈ではそれが普通の文化として受け入れられている。正直私も疑問に思ったことなどなかった。
それはメーカー側の立場に立つということが今までなかったからである。好意によって誰かにタダでプレゼントした物がとんでもない値段で売られているのを見たら、普通に考えてそりゃ悲しいだろう。芸能人が己のサインが転売されているのを見て憤慨する気持ちと一緒である。
ちなみに、私が無料で配布しているメダルに関しては、”転売”しても別に一切文句は言わないのでお好きにどうぞというスタンスである。自分は転売品を購入するのに、自分の物が転売されたときだけ文句を言うのはフェアじゃないですからな。
ただ、メダルゾンビ氏のメダル交換会で配布されたオリジナルメダルが超高額転売されているのを見た時はさすがに「うーん……」と思ってしまった。が、一方で、あそこまで高額でなければ購入していたのは自分かもしれなかったとも思うのである。メダルゾンビ氏の気持ちなど考えず。欲しいから。
だから、この”転売”問題はやはり超難しいなと思った次第である。
ただやはり、私は”転売”は仕方ない派ではある。ケースバイケースで判断するのも、ただ問題を複雑にするだけであると考えている。経済合理性で考えれば、基本的には売る方も買う方も納得してやり取りするものであり、気分が悪くなるのは常に外野だからだ。極論、当人同士はwin-winなのである。で、第三者が己の勝手な基準でわーわー言っていたら収拾がつかなくなることは目に見えているだろう。
それでも”転売”を阻止したいならば、結局流通量と入手手段の緩和を図るしか無い。PS5であれば最初から需要を満たすくらいの生産ができていればそもそも転売など起こらなかったし、観光施設においてはネット通販に対応して「交通費を掛けなくても入手可能にする」という対策を講じない限り転売は阻止できないだろう(記念メダルにおいては)。そして大切なポイントとしては、生産者・販売者が転売対策を講じなかったからといって、基本的には悪いことではないということである。誰に売ろうが得られる金銭的利益は同じであり、むしろ転売対策を講じる人件費やら手間やらのコストを考えれば、講じる方が損をするという見方もできる。人を動かすには金がいることを忘れてはいけない。
そういう意味では、茶平工業が取ったこの一手は非常に有効であった。転売品を購入するメリットが1ミリもなくなったからである。そして元々取り組んでいたサービス(通販)のラインナップに加えただけであるので、損失はない。
このように、転売問題を根本から解決するには、供給量を十分に満たす&入手しやすくするという道以外にはない。遊戯王カードでいえば、大会優勝者賞品であるカオスソルジャーのステンレスカードを世界で1枚しか作らなかったせいで10億円もするようになっちゃったのである(実話)。優勝しないと手に入らないし、世界に1枚しか無いし。
今回の件に関しては、転売行為をする人がいるせいで工場見学の際に何らかの記念品がもらえなくなる、という事態は絶対に避けたいと個人的には考えている(何かいただけるのは全然当たり前のことじゃありませんが!)。だからツイートにもある通り、茶平関連の”転売”はやめておこうよー! とお願いベースで呼びかけてみる。
どうなるかね。
記念メダルについて
このツイートにより、ツルツル地は「テリ」、ザラザラ地は「放電」と呼ぶことが判明した! 放電は「梨地」と呼んでおりましたな。
個人的な好みではやはり”放電”が好きである。これは光の反射率が高い仕様として開発されたらしい。
また、無地メダルの販売によって、例えばプリントメダルを製作したいな〜というときに、ある程度自分で仕上がり予想図を作成できるようになった。
こういうことを楽しむのもまた一興かと。テージーさんの世界の名画シリーズのように、著作権切れの有名絵画を元に自分でメダルをデザインして遊んでみるのもよいかもしれない。
ここは一つ、蓋ノ屋さんにも無地メダルを販売していただきたいところ。
お待ちしております!
発売に至る経緯はどうあれ、この無地メダルの販売はとても楽しい企画であったね!
ぜひまた、こういう挑戦的な企画をして欲しい。
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